多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

芙蓉鶏片、梁実秋

 芙蓉鶏片は北平東興楼の得意料理だ。東興楼は東華門大街路の北にあった。平屋建てだが、構えが特に高い。それにはわけがある。当初は二階建てにする予定で木材を買い揃えたのだが、皇帝のいる場所の近くに二階建てを建てると宮中をのぞいていると疑われ、処罰されるかもしれないと言われ、平屋にした。その分構えが高くなったのだ。東興楼のコックは宮廷の厨房にいたそうだ。山東料理煙台派の流れを汲み、とても格調が高い。北平の山東料理レストランでは一番だ。

 芙蓉鶏片の芙蓉は卵白のことだ。芙蓉ムキエビ

や芙蓉貝柱

の芙蓉と同じで、卵という言葉を嫌っているのだろう。まず鶏の胸肉を細かく切り刻んでペースト状にする。それを卵白と混ぜ合わせ、一体になるまで攪拌し、油を入れた鍋に入れて薄く伸ばす。じっくり火を通すが、焦がしてはならない。鍋から出すときにエンドウの若芽を加えると、鮮やかな緑が美しく映える。そこに鶏油を数滴垂らすと絶妙だ。製作過程は簡単だが、火加減が難しい。東興楼では中小の皿に料理を盛って、出していた。湖南料理のレストランのように、大皿に盛り、長い箸をつけるのとは趣が異なる。量が少ないとの批判もあったようだ。美食家にも大食いの人がいるのだろう。

 抗日戦争の期間、日本軍が東興楼に部隊を置いていた。勝利後北平に帰ると、東興楼は別の場所で営業しているという。行ってみて、大いに失望した。以前よりもレベルが落ち、大皿に料理を盛り付け、俗っぽいものになっていた。

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