多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

酒を語る、周作人

 最近、酒を飲むのが面白くなった。私は首都にいるが、東南部の海辺で生まれ育った。酒の産地で有名なところ(紹興)だ。叔父の家でいつも自家用の酒を造っていたが、その製法はずっとわからなかった。「酒はもち米で造る」という童謡を聞き、もち米を使うのだろうと思っていただけだ。酒を造る方法と器具は簡単なように思えたが、塗る頃合いがとても難しく、経験のある人でないとできなかった。それゆえ、ふだん酒を造るときは「酒頭工」と呼ばれる人を招いていた。自身は酒を飲めない人が最も良く、その人に酒を煮る頃合いを見計らってもらっていたのである。遠縁の親戚にあたる人で、私たちが「七斤おじさん」、母が「七斤さん」と呼んでいた人が、酒頭工として酒造りの手伝いに毎年来ていた。彼は刻み煙草が好きで、よく冗談を言い、麻雀をやったが、酒はあまり飲めなかった。それゆえ仕事は繁盛し、五十キロ百キロ離れたところにもよく招かれていた。彼の言うところによれば、そんなに難しくはないそうだ。甕のそばまで行って身をかがめ、泡の音を聞くだけだという。カニが泡を吹くような様子になれば、頃合いだ。早いと酒にならないし、遅いと酸っぱくなってしまう。しかし、ちょうどいい頃合いは他人にはわからない。熟練した耳がないと決められない。骨董品の鑑定と同じだ。
 酒を飲むときは、上品さを表現するため、小さな盃がよく使われるが、これはおかしい。底が浅くて口が大きく、下に脚のついた碗を使うのが正統なやり方だ。古代から伝わったシャンペングラスのようなものだ。酒をよく飲む人は「竹葉青」

を重宝する。通称は「本色」だ。「元紅」は「状元紅」の略で、色がついており、素人が好む。

他の地方に「花雕」

と呼ばれる酒があるが、本地の酒の店にはない。昔、家に女の子が生まれると、酒を醸して花模様の付いた酒壺に入れて貯蔵し、嫁に行くときにその酒で客をもてなしたそうだが、今はそういう風習はない。「元紅」をそういうときに買ってもてなすことはあるが、飲む方は貴重品とは思わないだろう。酒を飲む人の中には自分の家で醸したものを蓄えていることもあるが、その中に極めていい酒もある。毎年芳醇な酒を造って、数壺庭に埋め、二十年後に取り出す。二十年寝かした熟成酒が毎年飲めるわけだ。この種の熟成酒は普通は売っていないので、買えない。恩師の家で一度だけこういう素晴らしい酒を飲んだが、今でも忘れられない。
 私は酒の産地に生まれ育ち、酒について語るのも好きなので、大酒飲みだと思われるかもしれない。実際は全く違う。父は大変な酒飲みで、どれほど飲めたのか私もわからない。……が、私は父に似ていない。いや、気持ちはあるが体がついていかないと言った方がいい。酒は好きだがあまり飲めず、宴会の時は最初に酔って顔が赤くなってしまうのだ。病を患ってからは、酒を薬として飲むよう医者に言われている。毎回ブランデーを二十グラム、ワインと老酒がその倍だ。

六年たったが飲める量は増えていない。現在は百グラムの「花雕」を飲んだだけで顔が真っ赤になってしまう。飲めば飲むほど顔が白くなる友人がいるが、本当にうらやましい。惜しいことに、酒が飲める人ほど酒を飲まない。美人が自分の美しさをひけらかさないのと同じで、もったいないことだ。

 黄酒は少し安いので、いつでも買って飲めるが、他の酒が悪いというわけではない。

パイカルは私にとっては度が強く、口に入れると泡ができてしまう。

山西の汾酒と

北京の蓮花白は少し飲めるが、そんなにまろやかではない。

日本の清酒はとても好きだ。ただまるで新酒のようで、あまり穏やかではない。蒲桃酒と橙皮酒は口に合う。が、最も好きなのはブランデーだ。西洋人は茶の楽しみはあまりわからないようだが、酒については造詣が深く、決して中国の下ではない。毎日洋酒を飲むのは、当然国家の利益にならない。外国製の煙草を吸うのと同じだ。が、国産品のみを愛し、歯を食いしばって中国製の煙草ばかり吸わねばならぬわけでもない。酒を少しぐらいのんだって悪くはなかろう。少なくとも私個人はそう思う。
 酒を飲むことの楽しみはどこにあるのか?はっきり言えない。酒の楽しみは酔った後の陶然たる境地にあるという人がいる。しかし、その境地がどんなものか、私はあまりわからない。酒を飲み始めて以降、陶然たる境地を味わったことがないからだ。どういうわけか私の酔いは生理的なもので、精神的な陶酔ではない。それゆえ私が酒の楽しみを感じるのは飲む刹那だけだ。陶然とするのは杯を口につける一刻だけだ。酔えば眠くなって、少し休息しなければならなくなる。ゆったりした気持ちになるが、それが酒の真の楽しみとは必ずしも言えない。酔って夢を見て寝言をつぶやけば、現世のわずらわしさを忘れられるかもしれないが、限りがある。それより宇宙生命のすべてをかけて一口の美酒に耽溺したほうがいい。……

×

非ログインユーザーとして返信する