多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

揚州、春の冶春茶社(趙珩)

 冶春茶社は水際にある。三面が水に囲まれているので、窓から外を眺めれば、輝く水面と緑の樹木が目に入る。窓の外の川はそんなに幅が広くはないが、湖に通じていて、たまに小舟が通り、櫂が静かな水面に波を立てる。川の両側には木々が青々と茂り、茶社の建物と互いに引き立て合っている。にぎやかな市街地からは近い。川一つ隔てて、別の世界だ。喧噪の中の静けさだ。
 冶春の一番いい季節は、旧暦二月の後の、緑輝くときだ。摘んだばかりの江南の新茶が運ばれてくるので、入り口に「新茶がただいま到着しました」という看板を置く。簡にして要を得ており、宣伝文句を並べるよりいい。冶春の茶はいい。種類は多くないが、蓋つきの磁器の杯で淹れる。「茶文化」を名乗って派手な器を使っているような茶芸館や茶楼と異なり、冶春は生活に近いのだ。淹れた緑茶は、茶葉が杯の三分の二を占めるので、二口か三口飲めば湯を継ぎ足さねばならない。藤でくるんだポットもついているので、湯はいくらでもある。摘んだばかりの茶葉は碧緑、一口か二口で口の中に清らかな香りが広がり、実にすがすがしい。
 揚州には四回行った。1966年は冬だったが、あとの三回は水も木々も清らかな春だ。三回とも冶春で茶を飲み、午後の時間を過ごした。

春の雨が降っていた。外を眺めると、潤った緑。雨は降ったりやんだり。霧になったり。
 冶春は静かだ。どんな時間でも、席の三分の一くらいは穏やかな老人が座り、茶を味わいながら本や新聞を読んでいる。周囲の樹木からは鳥や雀の絶えない鳴き声。目を閉じると、しとしと降る雨の音と小舟の櫂の音。
 冶春にも軽食はある。だいたい午後に出るが、富春茶社より品種ははるかに少ない。二つか三つで、平民化されてはいるが、質はいい。有名なのは黄橋焼餅

と淮揚焼売

だ.。

黄橋焼餅はその場で作ったものを売っているが、甘いのと塩辛いのと二種類。甘いのは糖を餡にし、塩辛いのはネギを餡にしている。淮揚焼売はもち米に肉をサイコロ状に切ったものとシイタケを混ぜ、餡にしている。皮は紙のように薄く、透き通って輝く。揚州の人は油っこい物を好むので、餡も油っこい。北方の三鮮焼売より大きく、もち米も使ってもいるので、多くは食べられない。午後の軽食なら、二つか三つだ。冶春の客が軽食をとるのは、午後の三時か四時。茶を飲み終えて興趣も尽き、空腹を感じる。そこで黄橋焼餅一個と淮揚焼売二個を注文する。ちょうどいい。もうたそがれだ。小雨もやんだ。家に帰ろう。

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