多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

臭豆腐(豆腐を発酵させて作る臭みのある食品)、汪曾祺

 中国人以外に、臭いものを好んで食べる人がいるだろうか。
 かつて上海、南京、漢口ではすべて臭豆腐を油で揚げたものを売っていた。長沙火宮殿の臭豆腐は、ある大人物が若い時によく食べていたので有名になった。この大人物はのちにそこに行って食べ、「火宮殿の臭豆腐はやはりおいしい」と言った。「文化大革命」の最中、火宮殿の壁に、「最高指示:火宮殿の臭豆腐はやはりおいしい」という文字が出現した。
 私たちの同僚がある時南京に出張に行った。彼の奥さんは南京の人で、臭豆腐を少々持って帰るよう彼に頼んだ。彼は方策を尽くして、何とかした。が、それを持って汽車に乗ると、同じ車両の人たちに強く抗議された。

 豆腐のほかに、生麩、薄切りの干し豆腐も臭いものをよく食べる。野菜のチシャ、トウガン、ササゲもそうだ。冬タケノコの根は噛み切れないので、切って「臭い壺」に放り込む。私たちの故郷では多くのの家に「臭い壺」があり、中に「臭い漬け汁」が入っていた。「臭い漬け汁」とはカラシナの漬物を絞った汁を数日置いておいたものだ。 臭いものの中で最も特殊なのがヒユナの茎の臭いものだ。ヒユナは成長すると、茎が親指くらいの太さになり、一メートルほどの高さになる。それを七センチくらいに切って、「臭い壺」に入れる。臭みが染み通ると、外皮は硬く、中身はゼリーのようになる。 口に含んで吸い込むと、すぐに中身が口に入ってくる。粥の最高のおかずだ。

 北京人の言う「臭豆腐」は「豆腐乳(豆腐を発酵させてから塩に漬けたもの)」のことだ。

かつて物売りが「臭豆腐、醤豆腐、王致和の臭豆腐」と叫びながら、街路を歩いて売っていた。臭豆腐をクレープに添え、むきエビの白菜スープを食べるのは、すばらしい!現在、王致和の臭豆腐は大きな四角のガラス瓶に詰めて売っているが、とても不便だ、一瓶に百個入っており、食べ終わるのに長い時間がかかる。値段も高いので、ぜいたく品になってしまった。一つの器に五個くらいにしてほしい。
 私がアメリカで食べた最も臭いチーズ、西洋人は鼻を覆ったが、私にとってはなんでもなかった。臭豆腐とは比べ物にならない。
 中国人の味の好みの多様さは、世界一だろう。

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