多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

戯曲「茶館」冒頭部分、老舎

中国の代表的作家老舎(1899-1966)

の作品「茶館」の冒頭です。

 こういう大きな茶館は今はもう見られないが、

数十年前は各都市に最低一つはあった。そこでは茶と菓子、軽食を出している。鳥を飼っている人たちが、毎朝ガビチョウやコウライウグイスを連れて散歩した後、そこで足を止め、茶を飲んだり、鳥にさえずらせたりしている。相談事や結婚の仲介をする人もやってくる。当時、殴り合いはしょっちゅうだったが、いつも誰かが出てきて仲裁していた。仲裁人が懇々と諭し、ともに茶を飲み、爛肉麺(大きな茶館特有の食べ物。安くて速く作れる)

を食べて、仲直りをした。とにかく、当時は非常に重要な場所で、何かあっても何もなくてもみんなやってきて、ずっと座っていた。そこでは荒唐無稽なニュースを聞くことができた。どこかの大きなクモが雷に打たれ、妖怪に変化した、などだ。奇怪な意見も聞くことができた。海辺に大きな塀を作れば、外国兵の上陸を防げる、などだ。どこかの京劇俳優が最近新しいメロディーを創造したとか、アヘンをやめる最良の方法なども聞くことができた。誰かの風変わりな持ち物を見ることもできた。出土したばかりの玉の扇子の房飾りとか、三彩のかぎ煙草入れなどだ。本当に重要な場所で、まさに文化交流の場だった。


 今、私たちはそういう茶館の前にいる。
 ドアを入るとカウンターとかまどだ。舞台の上ではかまどはなくてもいい。後ろから鍋やしゃもじの響きが聞こえてくればいい。建物はとても大きくて天井は高く、長いテーブルと正方形のテーブル、長椅子と小さな椅子が並んでいるが、みんな茶を飲む人たちの席だ。窓から裏庭が見えるが、日よけがしつらえられ、その下にも茶を飲む人たちの席がある。屋内と日よけの下には鳥かごをぶら下げておく場所がある。そこにはすべて「国事を語るなかれ」という張り紙がある。


 名のわからぬ客が二人、目を細め、頭を振りながら、拍子木を打ち鳴らし低い声で歌っている。名のわからぬ客が二人か三人、壺の中のコオロギの鳴き声に聞き入っている。灰色の長い服を着た二人(宋恩子と呉祥子)がひそひそ話をしている。役所の仕事で、悪者を捕まえに来たのだろうか。
 今日も殴り合いが起きそうだ。ハト一羽のために、殴り合いのけんかになりそうだ。

×

非ログインユーザーとして返信する