多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

食憲鴻秘、熊の掌の調理法

 地上に穴を掘って半分石灰を入れ、そこに毛のついた熊の掌を置き、その上に石灰を入れ、水を注ぐ。石灰によって熊の掌が化学反応を起こしたら取り出して、陰干しにする。そうすれば、毛も毛根も容易に除去できる。その熊の掌をきれいに洗ってから、米のとぎ汁に一日か二日浸しておく。その後豚の脂でくるんでじっくり煮る。煮えたら、また豚の脂を取り除く。その後、掌をひも状に割いて、豚肉と一緒にとろ火で煮込む。

別のやり方

 熊の掌を柔らかく煮込むのは容易ではない。柔らかく煮込んでいないものを食べると腹具合が悪くなる。サンショウと塩の粉を小麦粉に混ぜたもので熊の掌をくるみ、飯を炊く鍋で十数回蒸したら食べられる。また、熊の掌の肉と豚肉を一緒に煮ると、豚肉は柔らかく芳醇な味になる。残った熊の掌は食べずに、次に豚肉を煮るときにまた使う。こうして豚肉と一緒に十数回煮ると、熊の掌は食べられるようになる。長期間保存でき、変質しない。


 熊の掌は、上等で美味な食べ物として、悠久の歴史を持つ。春秋戦国時代の「孟子」に「魚は我が欲するところなり。熊掌もまた我が欲するところなり。二者兼ぬることを得てべからずんば、魚を捨てて熊掌をとるものなり」とある。熊の掌はコラーゲンを主とする結合組織で、乾燥したものを短時間で柔らかく煮るのはとても難しい。それゆえ、春秋時代、楚の成王は太子の反乱に遭ったとき、「熊の掌を食べさせてくれ。それから死ぬ」と言って時間を稼ぎ、救援の兵が来るのを待った。熊の掌の調理には難度の高い技術が要るので、歴史上多くの調理人が、出来栄えが悪いからと殺されている。

 その後、料理人の不断の研究により、熊の掌を調理する技術はますます向上していった。清の康熙帝時代の満漢全席にある熊の掌の料理は「鮮やかな味で香りは濃厚、サクサクとして滑らかで玉のような白い色つや。食べて称賛しない人はいない」と言われている。

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