多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

泡菜壷、唐魯孫


 古人は「美食は美器にしかず」と言っている。いわゆる美器とは必ずしもきれいな形のものではなく、調理に適合したもののことだ。真の四川泡菜を味わおうと思えば、泡菜壷が必要で、それがあってこそスタンダードな四川泡菜が食べられる。


 私は北方に居住しているが、父も祖父も雲南や貴州、四川で役人をしていた。西南の人は辛いものを好み、北の人はネギとニンニクを好む。いずれも殺菌作用があり、食欲を刺激する。父や祖父の仕事の関係で、トウガラシが食卓に欠かせないものとなった。泡菜もまたご飯や粥のよきおかずとなったのである。四川の泡菜はもとより有名だが、美味しく漬けようと思えば鶯歌窯の壷が必要だ。他のものはよろしくない。

 正統な四川の泡菜は、使用する材料は多くない。サンショウ、塩、コウリャン酒、ショウガ、トウガラシ、氷砂糖ぐらいだ。まず野菜をきれいに洗ってから布で水分を拭き取り泡菜壷に入れる。一滴の油も水も入ってはならない。そうでないと、数日で表面に白い膜ができて、泡菜がダメになってしまう。泡菜にする野菜は、キャベツ、キュウリ、クキチシャなどが多く、上手な人は白ダイコンと赤ダイコンも入れる。下手にダイコンを扱うとスープが臭くなってしまうのだが、うまくいくと白い野菜にほんのりと赤い色がつき、とても美しい。

 泡菜壷の漬け汁の量はきちんと見ておかねばならず、壷の蓋はしっかりと閉め、空気が漏れないようにしないといけない。漬け汁の量が足りないと水を注ぐ。また泡菜専用の箸も必要で、油や水が入ってはならない。壷は涼しい日陰に置かないと泡菜が変質してしまう。漬けるのはだいたい五日から七日だ。夏や冬は気温に応じて調整する。私の家族はみんな泡菜が好きで、ほとんど毎日食べている。家の南側の廊下に四川から持ってきた泡菜壷がずらりと並んでおり、さまざまな季節の野菜を漬けている。壺は長く使えば使うほど、漬ける泡菜は豊潤な味になる。

 台湾のある女性が生前泡菜についていいことを言っていた。「四川の泡菜を食べるときは『鑑賞』という気持ちが大切だ。ゆっくり噛んで細かに味わってこそ、舌で尽きせぬ妙味を感じ取ることができる」と。味をよく知る人の言葉だ。

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