多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

江南の夏料理、車前子

 春は、一年の食生活の始まりだ。緑滴るありさまは、とても気持ちいいが、短い。
 江南の夏、夕食時になると、人々はテーブルと腰掛を運び出して路地裏に座り、夕食を食べながら、夜風に涼む。あらかじめ井戸水をまいておくが、しばらくすると街灯がともる。黄色く光る電柱と街灯だ。
 このとき、人々は薄い味付けを好むようになる。「開き魚の卵煮込み」。これは優れもので、大いに食欲をそそり、ご飯も多く食べられる。色合いも魅力的で、水を使わずに煮込むと卵も散らず、黄身は金色に輝き、白身は魚に霜か雪のように凝結している。食べずとも、見ているだけで涼しくなる。

 冬の間に漬けておいた魚や肉を、このとき、奥さんたちは取り出す。塩漬け肉は漢方薬におけるカンゾウのようなものだが、一番おいしいのは塩漬け肉のトウガンスープだ。そこに天目産の干しタケノコを加える。塩漬け肉は赤身と脂身を半々に使い、トウガンは皮とワタをきちんと片付けておく。古くからの蘇州人は、トウガンをかたまり上に切ってとことん煮込むので、形をとどめず、外観もよくない。栄養分も失われる。とことん煮込んだトウガンをコメを洗うざるにもって水分を切る。塩漬け肉を煮込んでいるスープが十分な状態になったら、トウガンをそこに入れ、沸騰したら火を止める。現在このスープを作るときは、薄切りにしたトウガンをさっとゆでて使う。青白い色が残り、わずかな硬さを感じるが、かえって風味があり、盛夏の趣だ。

トウガンは、むきエビと一緒にスープにもする。

トウガンは野菜にもよく合い、ネギ油(細かく刻んだねぎを油で揚げたもの)と一緒に食べると、絶妙だ。見た目は簡単だが、火加減に細かな工夫が必要だ。

夏に火腿(中華風ハム)を食べるのは、ぴったりだ。火腿の保存にはコツがある。冷蔵庫に置いてはならない。場所をとるし、他のものににおいが移る。新聞紙でくるんで、風通しのいい、涼しい日陰に置いておけば、無事に保存できる。絶対にビニール袋に入れてはならない。もちろん、私が言っているのは火腿まるごとだ。火腿は薄く切れば切るほど、おいしい。

塩漬け肉ではない、ふつうの肉もいい。細く切って炒めるのが一般的だ。マコモと細切り肉の炒め物、ザーサイと細切り肉の炒め物などがある。細切り肉でスープを作ってもいい。

アヒルの卵の塩漬けは、夏にとてもいい。食べるときは卵一つを二つか四つに切り分けるほうが、テーブルの角にぶつけて割るより趣きがある。江南一帯の古くからの習俗だが、立夏の日、子供が体重を計るときは、胸にアヒルの卵の塩漬けをぶら下げる。


 1960年代、漬物屋にスイカの皮の漬物が売っていたが、とても美味しかった。もう三十年近く食べていないが、さくさくしてかみごたえがあった。数年前自分で作ってみたが、まずいものしかできなかった。確か父が市外に避難していた時、橋の近くの漬物屋のスイカの皮の漬物が食べたいと人に頼んで伝えてきた。父の叔母、つまり私の大叔母が、ガラスの容器に入ったスイカの皮の漬物を持ち、私の手を引き、市外にいる父に会いに行った。

 エダマメと干し大根の炒め物は、何度食べても飽きることのない夏料理だ。干し大根の品質がポイントだ。常州の干し大根が最もいい。次が蕭山の干し大根だ。私はこれがとても好きで、よく食べる。これを食べ出すと、夏もそろそろ終わる。

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