多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

蘇北の獅子頭、張振楣

 蘇北の料理は何度も食べた。とてもさわやかな味だ。見た目は少し田舎くさいが、核心部分はなかなかのものだ。淮安のタウナギ料理、揚州の干絲、東台の魚湯麺は有名な料理なので、他所に比肩できるものはない。以前、周恩来総理が北京飯店に外国の賓客を招かれた時、揚州獅子頭が出た。宴会が終わると、周総理はコックに興味深げに「揚州獅子頭のポイントは、肉のミンチにクワイの粉を混ぜることだ。そうすれば、さわやかで柔らかく、特色豊かな味になる」とおっしゃった。

 今回宿遷で会議があり、蘇北の料理を再度味わう機会を得た。数日がたった。蘇北の固有の日常料理の味は変わっていないが、ホテルが出した客用の料理は他所と同じようなもので、印象が薄かった。日常料理の中で、特に獅子頭が印象に残った。あの日の昼は酒は飲まず、白いご飯と数皿の肉料理と野菜料理、そしてスープ。みんな楽しく味わった。皿に入った獅子頭は黄金色で丸く、気迫があり、大いに食欲をそそった。スプーンで飯茶碗に置き、口に入れた途端、心が震えた。想像し難いほどの柔らかさで、豚肉の芳潤さがあっという間に口の中に広がった。その潤い豊かな滑らかさは形容し難く、江南の獅子頭とは全く別のものだった。獅子頭の中を見ると、キラキラと輝いている。脂身が多いように見えたが、しつこさを感じない。獅子頭一個でご飯一碗がすぐになくなった。こんなに素晴らしい獅子頭があれば、白いご飯も滑らかで潤い豊かになる。…

 こっそり厨房に行き、コックさんに獅子頭の作り方を教わった。私が褒めたので、コックさんはニコニコして伝授してくれた。

 豚の前足の赤身と脂身を等量ずつ混ぜてミンチにしたあと、清水と調味料を加えて攪拌する。そうするとミンチが水分を吸い込み、コラーゲンが粘っこくなって、柔らかくて滑らかな味になるという。それを団子状にして表面が黄金色になるまで油で揚げたあと、蒸籠に入れて蒸す。そうすると獅子頭の油が外に出るが、形は変わらない。蒸籠から出したあと、汁をかける。そんなに複雑ではないが、実際やってみると難しい。

 帰っても、宿遷で食べた獅子頭が忘れられず、自分で作ってみた。形はともかく、味が全く及ばない。憧れの獅子頭で、神秘的なイメージさえある。

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