多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

東北の風味、端木蕻良

豚足の醤油煮

 子供の頃食べたおいしいものは、今でも覚えている。この豚足の醤油煮は作り方がユニークで、コストも高かったかもしれない。手間暇をかけ、時節も適切だったので、どこにでもあるというものではなかった。幼い頃母が作るのを見たことがあるが、深く印象に残っている。
 清の末から民国の初めにかけては、今日言うところの醤油はまだなく、清醤の一種しかなかった。豆醤を醸造する甕からひしゃくですくい出した醤の汁だ。のちの醤油は日本で先に製造されたものかもしれない。小さい頃家の中で見た大連から運ばれてきた醤油は、日本で作ったものだった。三十五、六センチの高さの小さな木の桶に入っていて、きれいな包装だった。当時は、清醤と醤油という言葉を混同して使っていた。
 私の故郷は東北で、ダイズの生産で有名だったので、当然醤つくりも有名だった。紹興の人が酒をつくるのと同じようなものだった。春から夏への変わり目になると、それぞれの家で醤をつくり始める。それぞれの家に大きな醤の甕があった。醤つくりの過程についてはここでは言わない。素晴らしい味の豚足の醤油煮の話をする。まず、いい豚足を選んできれいに洗う。それをじっくり煮た後、清潔な白い布でしっかりくるんで醤の甕の中に突っ込み、一定期間漬けておく。食べたい時に取り出し、布を裂いて、蒸したのち、切って皿に並べる。香りが周囲にあふれ、楽しみもあふれる。


ガラス葉餅

 葉が大きくてつややか、光をよく反射する樹木が故郷にあり、みんなその葉をガラス葉と呼んでいた。この葉でくるんだ餅が、ガラス葉餅だ。
 実際は「餅」という言葉は適切ではなく、「菓子」と呼ぶべきだろう。作り方:もち米の粉を水でこねてねばねばにした後、松の実、スイカの種のさね、クルミの実、ピーナッツ、アンズのさねなどを加える。均等に揉み込んだ後、蒸籠に入れて平らに伸ばし、じっくり蒸す。その後長方形に切ってから洗い、水に浸して柔らかくしたガラス葉で包み、再度蒸籠で蒸す。母がガラス葉餅をつくるたびに、いい香りが鼻を打った。小さな皿に入れて冷ました
ガラス葉餅を母が渡してくれたが、あれを上回る香りには、いまだ出会っていない。
 
ニレの実のスープ

 故郷のいたるところに、ニレの木があった。晩春になると、ヤナギの綿がカーテンをたたき、ニレの実が地面に散らばった。身をかがめて、ニレの実を拾ったものだ。布袋を胸の前にかけて木に登ってニレの実を摘んだり、長い竿でたたいて落としたり、いろいろな方法でニレの実をとった。小麦粉もしくはトウモロコシの粉に、時には鶏卵を加え、ニレの実を混ぜて様々な食品をつくり、食卓に載せた。北方の農村の人なら、みんな味わったことがある。ただ、スープをつくるケースは少なかった。
 確か子供の頃、母が成熟したニレの実を集めてきて天日干しにし、箕でふるいわけたものを黄色くなるまで鍋で炒め、それをすりつぶしたものに水を加えてこね、煮てスープにしていた。塩もしくは砂糖を加えていた。桂林のごま汁粉より美味しかった。

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