多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

濃厚な香り、菊花鍋、唐魯孫

  一昨日、花市場で本物の白菊の花を二鉢見た。普通の白菊の花は花弁がカニの爪のような形で花芯が緑がかっており、渋みを帯びた苦い香りだ。本物の白菊は、花弁が開き、花弁も花芯も一律に純白だ。かつて袁寒雲が詳細に書いており、菊花鍋には本物の白菊の花を選ぶのがいい選択だと述べている。
 かつて劉喜奎という美人女優がいた。薄味のものを好み、羊肉などは脂っこくていやだと言っていた。宴席では必ず菊花鍋を注文してもらっていた。台湾にもかなりの種類の菊があり、本物のの白菊を育成した人もいると聞いたが、料亭で菊花鍋を見たことはない。
 北平の菊花鍋といえば、報子街の同和堂の作るものがもっとも有名だ。北洋政府時代の交通総長だった葉誉虎がとても好み、西山の別荘「幻園」で詩を論じたり金石を研究したりする際、秋と冬は必ず同和堂の菊花鍋を注文していた。
 同和堂は北平の八大料亭の一つだが、舞台を設置していなかったので、座席などが入り混じり、他の八大料亭が請負宴席を主にしていたのに、同和堂だけが軽い飲食も提供していた。天梯鴨掌(アヒルの水かきを使った料理)

が得意だった。給仕頭だった趙仲廉によれば、同和堂の菊花鍋のスープはアヒルや鶏を使わず、上等のスペアリブを使っていたので、新鮮でさわやかな味だったそうだ。鍋の具にはケツギョの切り身や、小エビ、豚の胃袋、腎臓などを使用し、余計な部分は取り除いて加熱していた。上等の菊の花をきれいに洗い、春雨などもいい油で揚げていたので、煙臭さがなかった。
 同和堂の菊花鍋はいつも酒類を注文した後、持ってくる。スープが煮えると、給仕がふたを開け、数皿の具をてきぱきと鍋に入れる。加熱して煮えたら菊の花を入れ、ふたをしてとろ火でじっくり煮る。スープと具を給仕が小さな碗に入れ、客に渡す。北平の料亭では給仕が碗に入れて客に渡すのはまれだったが、菊花鍋だけは例外だった。みんなの箸の動きが遅いと具が煮えすぎて新鮮さと柔らかさがなくなり、まずくなってしまうからだ。
 台湾に来て三十年以上たつ。羊肉のしゃぶしゃぶや東北の白肉鍋など様々な鍋料理はあるが、菊花鍋だけがない。なぜだかわからない。

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