多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

火腿(中華ハム)、梁実秋

 以前は北方人は火腿の食べ方を知らず、脂っこくて嫌だと言っていた。調理の仕方が下手だったのかもしれない。火腿を見ると恐怖を感じる北方人もいて、清醤肉

の方を好んできた。のちになって、多くの北方人も火腿を味わうようになったが、火腿は結局は南方の物で、北方ではあまりはやらない。いくつかの北方のレストランでは決して火腿を使わず、清醤肉を使い続けている。実際、清醤肉もいいものだ。江南に行く時は必ず持っていき、友人にあげるのだが、皆称賛する。ただ、火腿特有の香りは清醤肉にはない。

 火腿の歴史については語らない。金の軍を破った宋の宗沢という人が発明したとも言われている。宗沢は金華の東、義烏の人だ。それゆえ現在まで金華火腿と呼ばれている。

火腿の材料や作り方はとても凝ったものだ。金華の近くの東陽県蔣村の蒋氏一族の大部分は火腿製造を生業としているので「蔣火腿」

は特に有名だ。金華でいい火腿が食べられるとは限らない。いいものは全国各地に販売される。

 1926年冬のある日、呉梅さんが東南大学の同僚たちと南京の万全で宴会を開き、私も出席した。蒸した火腿

が磁器の皿に高く積んで出された。火腿の精華の部分は二センチ四方の塊に切り分けられ、二十個くらいが重なっていた。美味この上なかった。

 抗日戦争時のある日、張道藩さんが重慶の留春塢で宴会を開いた。留春塢は雲南料理の店だ。雲南の食べ物は、ダイコンでもハクサイでもとても大きく、火腿も例外ではない。雲南の火腿は金華火腿より壮観で、脂が多くて肉が厚い。

味は少し落ちるが、焼いたものは独特の味だ。留春塢のものは、焼いた分厚い火腿でパンを挟んでいた。肥えた味で、湖南の蜜汁火腿より上だった。


 台湾はとても暑いので、火腿製作には向いていないが、かなりの人が模倣品を作っている。その結果粗製濫造となり、質の悪いものが出回っている。漬けたり天日干ししたりが不足しているのに売り出すので、尸の匂いがするものまである。

 ある時、本物の金華火腿画一個手に入った。小ぶりで固かった。何年も収蔵していたのだろう。知り合いの店に行き、主人に包丁で切ってもらったのだが、主人は呆然としていた。鼻の穴を開いてにおいを嗅ぎ、「本物の金華火腿だ。このにおいは数十年嗅いでいない!」と叫んだ。手放すに忍びない様子だったので、一部分を分けてあげた。家に帰ったらスープにして食べる、と言っていた。

 アメリカのハム(ham)はまずいものではないが、火腿とは別のもので、同列に論じられない。「バージニアハム」という品種は、色も味も香りも金華火腿に近い。骨を取ったものはことに美味しいので、海外にいる方は試してみてはどうか。

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