多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

アヒルの卵、汪曾祺(1920-1997)

私の故郷は水郷で、アヒルが多い。高郵の大麻アヒルは有名だ。アヒルが多いので、アヒルの卵も多い。高郵の人はアヒルの卵を漬けるのも得意だ。高郵のアヒルの卵の塩漬けは有名だ。蘇南や浙江で人に出身地を尋ねられて、答えるたびに、「ああ!アヒルの卵の塩漬けの産地ですね」と改まった調子で相手は話す。上海の店で売っているアヒルの卵の塩漬けには、必ず「高郵のアヒルの卵の塩漬け」と書いたメモが添えられている。高郵のアヒルの卵には黄身が二つあるものもある。

他地区のアヒルの卵にもたまにあるが、高郵ほど多くはない。黄身が二つあっても味は変わらない。結局ははアヒルの卵だ。切った後、中に黄身が二つあるのを見て、人が驚くだけのことだ。が、高郵のアヒルの卵の塩漬けは、確かにおいしい。私はいろいろな地区に行き、かなりのアヒルの卵を食べたが、故郷の高郵の物とは比べ物にならなかった。清時代の文人袁枚の「随園食単」にも、「卵の漬物は高郵のものがいい。色が細やかで油が多いからだ」と書いてある。

 高郵のアヒルの卵の塩漬けの特徴は、質が細やかで油が多いことだ。白身は柔らかく、他地区の物のようにぱさぱさしていない。油の多さでは、他地区のものは及ばない。アヒルの卵の食べ方としては、袁枚が書いているように、殻をつけたまま切るという方法がある。これは宴席で客をもてなすときだ。


普通のときは、箸で殻をつつき、掘りながら食べる。箸を突き入れると、赤い油が染み出てくる。高郵のアヒルの卵の塩漬けの黄身は赤みを帯びている。蘇北に「朱砂豆腐」という有名な料理があるが、

高郵のアヒルの卵の黄身で豆腐を炒めたものだ。私が北京で食べたアヒルの卵の塩漬けは、黄身が淡い黄色だった。こんなのはアヒルの卵の塩漬けとは呼べない!

×

非ログインユーザーとして返信する