薄餅、梁実秋
古人は「春盤」という言葉を使っていた。「通俗編四時宝鑑」に「立春の日、唐人は春餅生菜を作り、春
盤と号す」とある。春盤とは春餅のことだ。春に餅(小麦粉を焼いたもの)を食べる習俗は今でも各地にあるようだ。私の言う薄餅は、北平での食べ方を指しており、また年の初めに限ったものではない。
薄餅を作るには湯と小麦粉が必要で、焼くと軟らかくなる。二枚でワンセットだ。小麦粉をこねたものを二つ重ね、中間にごま油を塗り、薄く伸ばしたあと、鍋に入れて焼く。火は弱火で、油は加えなくてもいい。餅が変色し、真ん中が膨らんできたら、ひっくり返して少しの間焼く。
薄餅は、おかずを巻いて食べる。おかずは熟菜と炒菜の二種類だ。熟菜は便宜坊
というレストランから取り寄せる。以下のものを細切りにしている。
・豚足の醤油煮込み
・豚の胃
・ソーセージ
・アヒルを焼いたもの
・鶏を燻したもの
・清醤肉
・ばら肉をあぶったもの
炒菜は家で作るが、以下のものが欠かせない。
・たまごの薄焼きの細切り
・ホウレンソウ炒め
・肉と黄ニラ炒め
・もやし炒め
・春雨炒め
肉と黄ニラ炒めと春雨、もやしを一緒にしたものを「和菜」と言い、それに卵の薄焼きをかぶせると「帽子をかぶった和菜」となる。そのほか甘口みそとネギが要る。
食べ方は簡単だ。餅を大皿の上に広げ、みそを少し塗ってネギを数本置き、おかずを箸で少しずつ取り最後に春雨を入れて、巻いて食べる。
餅を食べたあとは、酸っぱくも辛くもない、卵の入ったスープ(エノキが入っていればなおいい)を飲む。
私はおかずの種類を減らすことが多い。煮込んだ肉の細切りと卵の薄焼き、もやし炒め、春雨だけにする
。これを「簡易薄」と言い、子供たちはとても喜ぶ。一度に七巻食べた子供もいる。