多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

焼羊肉、梁実秋

 みんな北平月盛斎の醤羊肉

と醤牛肉を知っている。良質で、四方に名前が知れ渡っている。が、実は、夏になるとある種の羊肉店は焼羊肉を売りに出す。だからこそ一般市民は美味を享受できる。

 焼羊肉と醤羊肉は、味も製法も食べ方も異なる。醤羊肉は、大きな羊肉の塊をじっくり煮込んだ後薄切りにし、冷やしてから食べる。焼羊肉は全く違う。焼羊肉を売りに出すのは、屠殺と販売の双方を行っている羊肉店だけだ。そういう店が、夏が来たら、午後に焼羊肉を売るのである。店舗はすべてイスラム教徒が経営しており、内外ともに清潔で、チリ一つ落ちていない。羊のバラ肉の大きな塊を鍋でじっくり煮て、取り出した後少し乾かす。それを油の入った鍋に入れて揚げるのだが、肉の表面が黄色く焦げたら取り出して別の鍋に入れる。その鍋に醤油を入れて蓋をしてとろ火でじっくり煮込む。黒っぽい色になったら、取り出して細長い形に切る。こうして調理した羊肉は、外は焦げていても中は柔らかく、油があってもしつこくはない。焼羊肉を買うときは碗を持っていかなければならない。店の人が比類のないほど濃厚なスープを入れてくれるからだ。自分で打った麺にそのスープをかけて食べれば、普通の牛肉麺よりはるかに美味しい。ちょうど柔らかい新ニンニクが出回るころで、キュウリの季節でもある。ニンニクと千切りのキュウリを入れた焼羊肉の麺は、形容する言葉がないくらい素晴らしい。
 北平を離れてしまえば、きちんとした焼羊肉を食べるのは困難だ。湖南料理レストランの羊肉の醤油煮込みは、羊肉の味がしない。羊肉特有の臭みもないが、羊肉特有の香りもない。皮つきの肉を醤油で煮込んでいるので、北方人には受け入れがたい。
 ある日、かつて清王朝の貴族だった友人とおしゃべりをしていたのだが、話が焼羊肉に及ぶと、彼は喜色満面となり、今にもよだれを垂らさんばかりだった。彼の言うには、台湾にも羊肉はあるが、質が劣る。しかし一度試しに作ってみたいとのことだ。彼は有言実行だ。数日後、私を招待した。果たして七十点か八十点の出来栄えだった。互いに手をたたいて大笑いした。

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