多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

同和堂の天梯アヒル掌(アヒルの水かき)、唐魯孫


 中華電視台の「烟雨江南」という連続ドラマの中に、王親分が同和堂で宴を開いた時天梯アヒル掌を注文する場面がある。天梯アヒル掌は確かに同和堂の得意料理だ。私は長年同和堂に通ったが、一回か二回食べただけだ。普段注文しても、給仕が「申し訳ありません。切らしております」とすまなさそうに言う。当時同和堂は商売が盛んで、市内外に馴染み客が多くいた。北平の大レストランには不文律があって、毎年年末かまどに封をする前、店主が馴染みの客を招いて宴を催し、新年の営業開始日を告げる。

 その宴には当然得意料理を出すが、同和堂では天梯アヒル掌が第一だった。以前焼きアヒルを食べるときは、舌や水かきは除外していた。山東料理レストランではそれらの舌

や水かきを用いて料理を作っていた。アヒルの水かきをまず一日清水に浸し、薄い膜を剥ぎ取る。その後黄酒に浸す。水かきが赤ちゃんの手のように膨らんだら、取り出して骨についている筋を取り去り、火腿(中華ハム)を加える。それをハチミツを塗った春筍もしくは冬筍の薄切りと、昆布で縛り、弱火でじっくり蒸す。火腿の油と蜜がゆっくり水かきと筍に染み込み、潤沢な味となる。


 袁世凱が天下を取っていた時の阮という高官がこの料理をとても好んでいたが、なかなか食べられなかったそうだ。その貴重さがわかる。

 同和堂は抗日戦争の時店を閉じたので、天梯アヒル掌は歴史の中に消えてしまった。

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