多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

茶の思い出、唐魯孫

……日本の茶道は厳粛過ぎて、「逸」の気持ちを失っているようだ。中国の広東や福建の功夫茶

は、いいことはいいが、とても煩わしいので私はあまり好きではない。今まで飲んだ茶で、美味しかったものについて記す。

 四川出身の蔵書家傅さんの家で、古書を譲ったお礼にプーアル茶

をご馳走になった。

宜興の急須

に三個の湯呑みが置いてあった。炭火の炉で湯を沸かしたが、玉泉山の「天下第一水」だと言う。傅さんはクルミの実くらいの黒っぽい茶葉の塊を持ってきた。家で収蔵しているプーアル茶だそうだ。雲南の名茶は沱茶

でもプーアル茶でも保存がきくが、ことにプーアル茶は長く置けば置くほど美味しくなると言う。湯呑みの中の茶は赤紫色で、口に入れた直後は苦みも渋みもなかったが、徐々に芳醇な香りが漂ってくる。香りが舌にまつわるようで、初めて飲んだいい茶だった。

 ある時揚州に行った。ロバに乗って平山堂

に行ったが、みんな喉が渇いたので、同行した「茶経」の専門家呉孝麗さんが携帯していた茶をご馳走してくれた。錫の缶から竹の匙で五十グラムほど取り出した。葉が丸まっていたので穀雨前に摘んだものだろう。馥郁たる香りだが、しつこくはない。茶を湯呑みいっぱいに注いでも外にあふれこぼれない。平山堂の「天下第二水」が名実相伴うものであることがわかった。口に入れると、言葉にできない香りが心に沁みとおった。今まで飲んだことのないものだ。呉さんによれば、この茶は四川の高山の崖に生えているのでサルに取って来させるそうで、「猴茶」と呼ばれている。

むくみを消して目を明るくし、脾を清くするという。いい茶を飲んだ二回目だった。
 三回目は漢口の方さんの家で飲んだ黄山雲霧茶だ。

湯呑みに入れると水蒸気のごとき雲霧が漂い、七、八分目まで入れてやっと消える。

方さんが急須を開けて見せてくれたが、茶葉は開かないままで立っている。口に入れるとわずかな苦みを感じたが、飲んだ後に香りと甘みが残った。今まで飲んだ中では一番の茶だった。

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