多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

北平の朝食、唐魯孫

 朝食というと、台湾生まれの人も内地から台湾に来た若い人も、異口同音に「北平の朝食は、焼餅

、と油条


と豆乳


ですね」と言う。

 実際は北平の朝食は種類が多い。粥店で以前は甘みそ粥

を売っていた。うるち米の粥

より値段が高かった。北平の人は質素倹約を重んじていたので、1930年代以降は「甘みそ粥」は歴史的存在になってしまった。

 そのほかに、前門外に住んでいる人は、肉市の小橋に行き、豚の肝臓と小腸を煮込んだものを朝食として食べていた。

百十年以上のあいだ、毎朝門前に鍋をぶら下げて売っていた。売り切れたら、次の朝だ。この朝食は正統な北平人しか知らず、よそからやってきた人はどこに行けば食べられるのかわからなかっただろう。

 油条と一緒に食べるものとして、面茶もある。天秤棒を担いで売りにくるものだ。


コウリャンの類をのり状になるまで煮込んだもので、甘くも塩辛くもない。碗に入れてもらって、そこに特製のごまペーストとサンショウ塩をかける。冬に焼餅と一緒に食べると、碗の底まで食べても、熱くて香りが落ちない。甘いものが欲しければ杏仁茶を飲む。



米に苦杏仁と砂糖を加えて煮込んだもので、杏仁そのものはそんなに多くないが、苦杏仁を用いているので、味は濃い。朝に熱々のものを飲むと、食欲が大いに増進する。

 牛骨髄面茶もある。

杏仁茶と似ているが、すべて露店で売っており、扱っているのはイスラム教の人たちだ。塩辛いものが欲しければ、汁につけた豆腐脳


を売っている店に行けばいい。中の肉は赤身も脂身もある。コショウ塩をかけた花巻


と一緒に食べると、実に美味しい。

 また、西単の聚仙居の血餡蒸し餃子

もよき朝食の一つだ。ニンジン、コウサイ、ニワトリとアヒルの血、鶏卵、むきエビなどを餡に使用している。北平ではその店にしかなかった。のちに道路整備のために、豚足の醤油煮込みで有名な天福と聚仙居は取壊されてしまった。今後北平に帰って血餡蒸し餃子を食べたいと思っても、どうにもならない。台湾からはるか北方を望むと、よだれが出てくる。生まれてすぐに台湾に来た若い人は焼餅と油条と豆乳しか知らないので、色々書いてみようと思った。北平の朝食は実際は種類が多いのである。

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