多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

桃、周作人

  桃が嫌いな人はいないだろう。「詩経」の「桃の夭夭たる」という詩句は、のちに「逃亡」という意味で使われるようになった。本来「詩経」には「桃の夭夭たる、灼灼たりその華」、「蕡たる有りその実」、「その葉蓁蓁たり」とあり、花、実、葉のすべてに言及している。後になって桃の果実に重きが置かれるようになったようだ。
  果物の中で人に最も好かれるのは桃だ。何かの絵で子供や猿が桃を捧げ持っている姿はよく見かけるが、

、リンゴやナシを捧げ持っている姿は見かけないことからも明らかだ。味について言えば、確かに果物で一番だ。その鮮なる味は、他の果物にはない。水蜜桃は甘みが普通なので、

桃の中で一番というわけではない。子供の頃、夏白桃

というのを食べたことがあるが、赤みを帯びた白い色で、桃特有の爽やかで新鮮な甘みがあり、今でも忘れられない。あと、田舎の人が蟠桃と呼ぶ平たい桃にも、

 特殊な風味がある。蟠桃といえば、九千年で結実し、食べれば不老長寿になるといわれている。古人が桃をどれほど重んじたかわかるだろう。

  陶淵明の「桃花源記」は実際に存在した場所のことを言っているのだが、後世の人が読むと、仙人の世界のようだ。「たちまち桃花の村に逢う。岸をはさむこと数百歩、中に雑樹なし。芳草鮮美、落英嬪紛たり」という部分は桃の花を描写しているが、実に力がこもっている。決して偶然ではない。

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