多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

酒楼、周作人

 兄魯迅の「酒楼にて」という小説は呂緯甫という人物を描いている。范愛農さんに少し性格が似ているが、実際はモデルはおらず、小説の中の呂緯甫に関する二つの事件は、詩と真実の違いはあるものの、著者魯迅自身の経験によるものだ。その酒楼の所在地は小説ではs市となっているが、紹興をウェード式のローマ字で書いた時の先頭の文字を取ったものだ。魯迅がs会館という言葉をよく使ったことを見ても、それは明らかだ。以前小説の中で書いていた魯鎮は故郷の田舎の近くの小さな町で、小舟に乗れば半日の距離だ。……

 小説の中で「紹興酒五百グラム」と言って注文しているが、これは北方の言い方だ。おかずと言っても実際は酒のつまみに過ぎない。「油豆腐を十個、トウガラシ入りみそを多めに」

などと注文している。

が、これは田舎でよく食べるものだ。他の場所にないものではなくても、特別な食べ物と言える。土鍋で豆腐を水煮して、適宜塩をふりかけ、皿に乗せ、トウガラシ入りみそをつけて食べる。作り方は簡単に見えるが、家で真似をしてもあまり美味しいものはできない。肉のスープを使っているという人もいるが、それは違うだろう。肉の風味がしないし、一個一文という値段を考えれば、コストオーバーになる。呂緯甫は酒に加えて、ウイキョウ豆、

煮凝り肉

 

干しセイギョ

の合計四品を注文している。ウイキョウ豆は魯迅の「孔乙己」という小説の中でも見られ、一般の飲み屋で出しているものだが、それ以外の肉料理はかなり大きな飲み屋に行かないと食べられない。「煮凝り肉」は、赤身と脂身がうまく混ざった豚肉を長方形に切り分け、クマザサの糸で縛り、醤油やケイヒなどを加えた後じっくり煮て鉢に盛り、冷やしてゼリー状のものができたら大皿に入れて出す。琥珀のようにきらめき、冬でないと作れない。一個十六文だ。干したセイギョとは、セイギョを天日干しにした後塊に切り分けて蒸したものだ。焼酎を振りかけると柔らかさが増す。「酒楼」ではこれらの肉料理は酒のつまみに過ぎず、現在の炒め物のような料理ではない。世俗的な言い方に照らして書いたもので、必ずしも真実ではない。(1952年4月)

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