多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

ヒシの実、周作人


 毎日午前、門の外にヒシの実を売りにくる。子供たちが買ってくれとせがむので、十袋買ってやる。一人当たり十いくつのヒシの実だ。小さな四角ヒシの一種で、刺ヒシより少し大きく、青みがかった黒色。そんなに変わった形ではなく、味も二角ヒシと同じだ。1880年出版の「湖雅」の巻ニにヒシの実に関する記載があるが、浙江東部の状況とだいたい同じだ。以下、引用する。

 「仙潭文献」:「水紅ヒシ」が最初に出てくる。

青ヒシ

には「花蒂」、「火刀」の二種類があり、陰干しにすると長くもつ。「火刀」の方がより長持ちし、新春になっても食べられる。塔村の「鶏腿」というヒシは、生で食べると美味しく、柏林の「沙角」というヒシは、じっくり煮るととても美味しい。田舎の人は九月と十月の変わり目に水中から多くを収穫し、皮を剥いてギンナンと同じやり方で貯蔵する。

 「湖録」:菱と芰は異なる。「武陵記」:「四角と三角のものを芰と呼び、二角のものを菱と呼ぶ」。現在湖水の中のヒシは二角が多い。初冬に採取し天日干しにすると長持ちし、「風ヒシ」と呼ぶ。西湾桑一帯でのみ四角ヒシを植えているが、肥えて大きく、夏と秋の境目に収穫して、じっくり煮て、市で売る。「熟老ヒシ」と言う。

 紹興にも二角ヒシはあるが、あまり美味しくない。「醤大ヒシ」としてフルーツ店で売っており、「黄ヒシ肉」

と呼ばれている。清明節の墓参りの際、供物としてよく使う。水底に沈んだヒシの実は芽を出すが、竹を編んだものでさらえて取る。初冬の田舎でよく売っているが、市ではあまり見かけない。普通は四角のヒシは煮て食べるのがいい。が、「駝背白」という品種だけは、生でも煮ても美味しい。十年前は五百グラムを十文で売っていたが、近年は物価が上昇しているので、いくらかわからない。郊外の河川はヒシでうまっており、真ん中にのみ舟の行き交う水路が空いている。秋が深まって風が吹き出すと、波が立ち始め、舟からヒシの実をとることができる。

 水紅ヒシは、調理する人もいるようだが、生でのみ食べられる。秋に若くて柔らかなヒシをとり、じっくり煮て渋皮を除去した後酒と醤油、サンショウを加えると「酔大ヒシ」

ができる。酒のつまみにとてもよく、旧暦八月三日のかまどの神様の誕生日には、これを供えるのが不文律だ。水紅ヒシは繊細で艶やかなので、女性の纏足に喩えられる。

  (1926.8)

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