多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

クルミのスープ、梁実秋

ある年、今は亡き父が一家を玉華台のレストランに連れていき、ともに昼食をとった。家族三代がテーブルにそろっていた。そこの自慢料理をすべて食べた後、大きな鉢に入ったクルミのスープが出てきた。色も香りも味も素晴らしく、みんな「おいしい!」と叫んだ。母がその時言った。「おいしいことはおいしいけど、毎日多くを売り、大量に作らなければならないからこういう風にしかできないのよ。家で小さな鍋を使って私が作り、皆に食べさせてあげるわ」それを聞いて私たちはとても喜び、毎日母が作るのが待ち遠しかった。

 祖母に杏仁茶を作る時の経験をもとにして、母はクルミのスープを作っていた。祖母の朝食は、ツバメの巣とカエル、ハスの実のほかに、時々杏仁茶がついた。街で売っていた杏仁茶はおいしくなかったので、母の手作りだった。作るのは一碗だけだったが、きちんと材料をそろえ手を抜かずに作ったので、時間が経つととても上手になった。クルミのスープと杏仁茶は性質が似ている。
 クルミは元は西北遊牧民族のもので、張弿のときに中国に伝わった。北方で多く産する。クルミの実一抱えを熱湯に浸すのだ。司馬光は幼い頃人にやってもらっていた。そうすると殻がとりやすくなるのだが、姉には自分でやったと言っていた。この話は有名だ。熱湯に浸した後殻をとる。面倒な作業だが、数が多くなければすぐにできる。聞くところによれば、レストランでは硬めのブラシを使っていたそうだ。クルミの実は細かく砕けば砕くほどいい。
 ナツメも一抱えを水に浸す。膨れ上がったら、煮て、皮をむく。これは手間がかかる。ナツメの木は黄河の両岸のいたるところに生えているが、河南霊宝産のものが一番いい。果実が大きくて甘いのだ。北平で買えるナツメもかなり大きい。台湾の漢方薬店で売っているナツメのように小さくてやせたものではない。が、皮をむいて果肉を取り出すのは、やはり簡単ではない。簡単でやぼったいやり方だが、私たちはナイフを使っていた。果肉に皮がついていてはだめなのだ。
 碗に半分ほどの白米を一昼夜水に浸した後、鉢に入れ、適当に水を加えながら木槌でとことん細かく砕く。砕いた米を汁と一緒にガーゼで包み、力を入れて絞る。絞り出た汁を碗に入れておく。
 クルミのスープを煮るのは小さなやかんが一番いい。銅や鉄で作ったものより土を焼いて作ったやかんがいいのだが、最近はほとんど見ない。
 米の汁と砕いたクルミの実、ナツメの果肉を一緒に小さなやかんに入れて、煮る。あふれ出ないようにそばで見ていなければならない。すぐにクルミのスープが煮上がる。煮上がったものに砂糖を適量加え、三つか四つの小さな碗に分けて入れる。少し紫がかった色で、ナツメとクルミの香りが鼻を打つ。口に入れると少し粘っこくて適度な甘みがあり、飲み込むのがもったいないような気がする。

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