多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

漬物について、梁実秋

 抗日戦争の時、私は向さんと共に後方にいた。ある時冗談まじりに「あなたの故郷保定にはどんな名産がありますか?」と尋ねたら、「宝物が三つあります。握って掌をマッサージする鉄球と漬物、春不老(ナズナの仲間で山菜の一種)です」という答えが返ってきた。向さんは将来機会があれば必ず見せてくれると約束した。抗日戦争が終わって故郷に帰ると、向さんは約束を果たした。保定から北平まで私を訪ね、鉄球一対(北方の老人はこれで掌をマッサージするのを好む)と漬物一かごを渡してくれた。春不老は季節ではなかったので持って来れなかったそうだ。鉄球はともかく、漬物は軽視できるものではないと考えた。名産である以上、それなりのものだと考えた。

 油紙をのりで貼ったかごは簡素ではあった。が、何でも見てくれで判断するのは良くない。開けてみると、様々な漬物が入っていた。ダイコン、キュウリ、ピーナッツ、杏仁など、皆あった。一切れつまんで口に入れてみた。北平のダイコン漬より塩辛かった。

 北平の漬物の良さは、あまり塩辛くもあまり甘くもないことだ。六必居という漬物店の扁額の字(三つの字は確かによく書けている)は厳嵩が書いたものなので、特別にネームバリューがあり、多くの人が遠くから漬物を買いに来る。私の経験を言うと、有名な店が美味しいとは限らない。鉄門のところに四方で有名なみそ屋があるが、特に美味しいわけではない。が、金魚胡同市場の向かいにある天義順は、私の家に近く、商品も新鮮だ。

 漬物の種類は多いが、ダイコンの甘みそ漬こそ、何度食べても飽きない本物だ。細長くて良質、漬物にちょうどいいダイコンを使っている。他の店のダイコンは水分が多すぎてしっかりしておらず、漬けたものもサクサク感がない。名産というものは、もとより技量が必要だが、実際は材料の方が重要なのだろう。

 料理の材料とするにとても向いている漬物が二種類ある。一つがキュウリのみそ漬で、キジの肉をサイコロ状に切ったものを炒めるときに使う。年末年始には野生の味が市場に出回るが、キジは最も好まれる。彩り豊かな長い尾がきれいだ。キジの胸肉をサイコロ状に切り分け、キュウリのみそ漬を加えて強火で炒める。鍋から取り出すときに大量のネギを投入し、ごま油をかけて撹拌する。出来上がったキジ肉は白くて柔らかく、キュウリのみそ漬の甘みと塩味がそれとマッチして、正月料理には欠かせない一品だ。冷まして食べるのがいい。北方は寒いので、大鍋で炒めれば、保存も効く。

 もう一つはハクサイのみそ漬で、冬タケノコと一緒に炒める。これは温かいうちに食べるのがいい。北方のハクサイは白くて柔らかい。漬物の甕から取り出したものを細かく切り、冬タケノコを切ったものと共に炒めるのだが、格別の風味だ。セリホンやナズナ、冬シイタケと炒めたものとは、全く異なるものだ。

 日本の漬物は塩辛すぎるか甘すぎるかなので、私は食べない。

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