多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

杜甫のグルメ詩 

「国破れて山河あり」で有名な杜甫のグルメ詩をいくつかご紹介します。

      閔郷の姜七府鱠を設く、戯れに長歌を贈る
 姜侯が厳冬に鱠をご馳走してくださった。昨日今日と寒風が吹いて黄河は凍っているので、魚を捕るのは簡単でない。漁師が川面に張った氷に穴を開けて魚を捕まえ、料理人に渡す。料理人は音もなくそれを細かに切るが、魚の肉は雪のように白い。骨を刻むと、その身は春のネギのように柔らかい。
 私がほしいままに食べても、魚が美しい皿に次々と並ぶ。年老いた自分に柔らかい部分をすすめてくれるし、ご飯もおいしく、柔らかく炊いてくれる。姜侯の徳に感じ入り、美味と美食を心から味わった。
 東へ帰らねばならないのだが、なかなか別れ難く、馬に乗っても力が入らない。私はこれから老い衰え、姜侯は出世されるだろう。そのとき、今日のことを感慨深く思い出すだろう。


  打魚を観る歌
 綿州涪江の東の渡し場で、銀よりも白く輝くトガリヒラウオが跳ねている。漁師が舟に乗って大きな網をあげると、数百尾もかかっている。雑魚は捨てるが、赤鯉は神がかった力で跳ね出てしまう。水底の竜が腹を立て、ぴゅうぴゅう風を吹かせている。
 料理人が研ぎ澄ませた包丁の白く光り刃をふるうと、美しい皿に鱠が白雪のように積もる。脂がのったトガリヒラウオは天下第一だ。飽きるほどに食べてしまうと、なんだか悲しくなる。白い鰭を割かれた魚は、紙一重で川の水とお別れになってしまったのだ。


  槐葉の冷淘
 青々と高く茂ったエンジュの葉を摘み、厨房に持っていく。その汁と滓をできたての小麦粉に混ぜる。それを鼎に入れて適度に加熱。雪よりも冷たく感じるような舌触りで、他人にあげるのはもったいない。
 金色に飾った駿馬で、天子様の美しい御殿にお届けしたい。芹や藻を献じる誠意そのものは小さいが、気持ちは必ず伝わる。天子様の御殿には、氷を開いたような玉の壺が清らかに並んでいる。そういう場所で天子様が涼まれる際には、この冷淘も時には必要だ。

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