多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

温州人の生食、林斤瀾

 温州には生で食べるものがかなり多い。多少の調理はしていても、火を通さないし、熱も加えない。こういう食べ方だったら、「生」という字を後ろに置く必要がある。豆腐生、港蟹生、白鱣生のように。

 温州人で、たまに「生」を食べない人がいると、他人に「温州人なのにもったいない」と言われる。温州人は故郷を遠く離れても、食事といえば、「生」のことをよく話す。「生」と言ってもそれぞれ好みがあるが、みんな喜びを表す

 港蟹生はその中でも素晴らしいものだ。海でとれたワタリガニの殻を剥いて、淡い塩水につけるか塩を振るかして二、三時間置いておき、切り分けて皿に盛る。蟹の肉は新鮮なので卵白のような色、蟹味噌は肥えているので、黄金のようだ。火を通していないので、凝結しておらず、生き生きと輝いている。酢とコショウの粉を加え、白砂糖を少し入れることもある。コショウの粉だけは絶対に欠かせない。

 1987年の春、上海でA型肝炎が発生し、杭州と沿海一帯にまで蔓延したので、政府は一定期間生食を禁止した。椒江市文聯主席の女性作家が、私が長年他地方にいたことを知り、自ら厨房を監督して、生のカニ料理を作ってくれた。三日以内に肝炎に感染したら責任を取る、ということだった。実際は彼女に責任はない。私は最初は少しためらったが、あっという間に平らげてしまったからだ。

 ちょうどカニのシーズンで、毎日毎食舌が破れるほど食べまくった。蒸したカニや炒めたカニ、煮たカニには食欲が湧かなかった。が、生のカニだけは、何度食べても飽きることはなかった。大自然の新鮮さとそのままの味、嫌になるわけがない。

 他地方から来た人は敢えて食べず、「血が滴っているようだ」と嘆じるという。

 確かに原始的だ。何、原始の美こそ、美の源だ。美を追求する人は、様々な苦労を経て、本来の姿にかえる。最後の境地に帰るのである。

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