多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

粥と人生(二)、張抗抗

 砂糖入りのエンドウマメの粥は粥に関する記憶の中ではかなり幸福なものだ。国家から戻ってきた穀物を毎年食べていた当時の北大荒では、大米の粥は得難いものだった。南方人の「米への思い」は、トウモロコシのまんじゅうやアワ飯の間で徐々に淡くなり、抑圧されていった。やるせなさの中でだんだんわかってきたのだが、米以外の穀物を主食とする中で、受け入れることができ尚且つ容易に適合できたのは、粥だけだった。トウモロコシの粥とアワの粥だった。
 

 トウモロコシの粒を押しつぶして緑豆くらいの大きさの乾燥した粒を作る。それを大きな鍋に入れて水を入れ、強火で急激に炊いた後、弱火にして煮込む。弱火で煮込む時間は長ければ長いほどいい。時間が長いとトウモロコシの粒はドロドロに煮えていき、そうなると美味しさも増すのである。香りが周囲にあふれると、鍋のふたを開ける。きらきらと黄金色に輝いている。碗に盛ると、まるで金の碗のようで、珍しく、また荘厳だった。
 大米の粥と口当たりは全く違っていた。粒がふっくらとしていて弾力性があり、噛み始めると癖になる。それぞれの粒から出てくる濃厚な汁は、秋の田野の成熟した穀物の息吹を思わせ、北方の男性のたくましさを連想させた。
 トウモロコシの粥を作る時のポイントは、トウモロコシの粒を鍋に入れるのと同時に、ツルアズキの細長い粒を入れることだ。ツルアズキは一般の緑豆やアズキよりもかなり大きく、紫やピンク、白など様々な色のものがある。様々な色彩の豆がかすかにはじけ、黄金色の粥スープの中で浮き沈みするのは、玉の皿にはめ込んだ宝石のようだ……


 アワの粥はトウモロコシの粥に比べると、柔らかで細やかな感じがする。そして栄養価が極めて高く、容易に人体に吸収されるので、北方の女性は出産の際の産褥期と哺乳期の栄養補助食品として使う。私が北大荒農場のオンドルの上で息子を出産したとき、農場の職員さんの家族がアワを一袋持ってきてくれた。それで、私は困難な一連の日々をしのいだ。毎日毎食、ほとんどアワの粥を食べていた。霜が降りる土製の家屋の中、湯気を立てている澄んだ黄色のアワの粥の碗を氷のように冷え切った両手で捧げ持つと、生きていく力がみなぎってくるのを感じた。熱い粥の一滴は私の体を暖め、涙を乾かし、心にぬくもりをくれた。もう何も恐れなくなった。粥には祖母が言っていた効能だけではなく、人生を担って苦痛を緩和し、甚だしくは運命に影響を与えることもあるのである。

 まさにこの頃かもしれない。私が遠方の白米の粥への夢想を捨て、現実のアワの粥への思いを確かにしたのは。大地からの慰め以外に頼るものがなかった私は、純潔な白色と引き換えに収穫の季節に大地に広がる黄金色を手にしたのである。今でもアワの粥を崇敬している。私が世界へと突進するエネルギーを与えてくれたのだ。
 しかし、白色と黄金色の粥だけで、私の思いが語りつくせるわけではない。
 アワの粥を食べる日々が過ぎ去ってから長い年月が経ち、私は父母とともに広東の家に帰省した。広州に数日滞在したが、今まで見たこともないような絢爛たる粥が豊富にあった。色彩豊かで味も様々だった。

路地や街角の至る所に粥を売る露店や屋台があり、盛んに燃える火の上に、じっくりと炊き込まれた粥がぐつぐつと泡立っている。きちんと並んだ碗に生魚や生の鶏肉、豚肉の切れ端がはいっいて、客が好きなものを選ぶ。客が選んだ碗に主が煮立った

粥をしゃもじですくって注ぐのだが、沸騰している粥の熱で生魚などはすぐに煮えてしまう。そこに少量の塩とコショウ、化学調味料を入れて箸でかき混ぜると、美味しい生魚粥の出来上がりだ。

 生魚粥の美味しさは比肩できるものがない。口に入れた途端にとろけ、後味が尽きない。魚の切れ端は柔らかくて滑らかだが、しつこくはない。一

碗食べると全身が気持ち良くなり、他に何も求めるものがなくなる。広州でガチョウやヘビなどの野生の味も食べたが、一碗の安い生魚粥と鶏肉粥が忘れられない。

 新会の家から広州に帰る時、飛行機のチケットの関係で!一家三人が父の親戚の家に泊まった。その家に私より何歳か年下の阿嫦という娘さんがいた。彼女は毎晩寝る前、私たちの次の朝の粥を暖めてくれた。口が狭く底が深い陶器の壺に洗った米と適量の水を入れ、それに固く蓋をして火の残る炉に置いてから、寝た。夜の後半になると炉の火が徐々に燃え始めるので、壺の中の米はとろ火で煮込まれることになる。朝起きると、あらかじめ用意しておいたパクチョイのみじん切りとピータンの薄切り、むきエビと少量のミンチを一緒に壺に入れ、さらに調味料を加える。広東地方の家庭の粥の出来上がりだ。

 阿嫦の粥は爽やかで美味しく、一碗食べたらおかわりをしたくなり、おなかがまん丸になるまで食べてしまう。それだけではなく内容が豊富で色彩も鮮やか、パクチョイの緑とミンチの赤、ピータンの黒褐色

とむきエビの黄金色、それらが雪のような白い米に映え、まさに絢爛たる絵画だ。

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