多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

温州のビーフン料理、林斤瀾

 米をひいて粉にし、水を混ぜてペースト状にしたものを糸状に切り分ける。それを鍋に入れてじっくり煮て、陰干しにする。南方の省ならどこにでもあるビーフンだ。髪の毛のように細いものは竜の髭とも呼ばれる。

 農家が顔なじみや招かれざる客を応接するとき、ビーフンを炒めて出す。どんぶりにてんこ盛りにし、「お粗末ですが」と言って客の前に置く。ご飯のおかずにも酒のつまみにもなる。黄色い鶏卵や緑色のとれたて野菜、こげ茶色のシイタケ、淡い赤色のムキエビなどをトッピングする。

 少年時代戦争に行き、初めて深山に入った。ある駅に泊まった。真っ暗な中、豆粒のような灯火が光

り、どんぶりいっぱいのビーフンを持ってきてくれた。もう半世紀経つが、今でも目の前で湯気を立てている。

 思わぬことに、私の娘は八歳か九歳の時に「災禍」に遭い、初めて故郷に帰ることになった。一日「小さな汽船」に乗って、叔母のいる田舎に帰った。娘の印象に深く残っているのは、銃声とどんぶりいっぱいの炒めたビーフンだ。

 ビーフンはスープで煮てもいい。温州以外では見たことがないが、市場に「豚のモツビーフン」というのがある。店でとろ火で鍋を煮込んでいる。そこには

大小の豚の腸と「輿のかつぎ棒」のように太いビーフンがスープの中に横たわっている。特製のビーフンで、じっくり煮えてはいるが、箸で摘んでも切れない。

 椅子に座ると、主が「輿のかつぎ棒」のようなビーフンを箸で摘んで碗に入れる。そして熱いスープの中の腸を指で摘んで包丁で切り、同じ碗に入れる。そこに碧緑のコウサイを振りかけるのだが、すばやくてあか抜けた動作、食欲をそそる。

 現在、市場も簡便になった。あらかじめ煮込んでおいた豚の腸がきちんと切って置いてあり、ビーフンも「輿のかつぎ棒」のようではない。必要な時に加熱し、しゃもじで豚の腸をすくって入れる。簡便になったのは時代の要請で、いいことだ。しかし、大鍋で煮込んでいたのも忘れ難い。

 半世紀以上前、粟裕という大将が福建や浙江でゲリラ戦をしていたが、晩年になってかつての根拠地を見にきた。ある市場で聞いたのだが、ある晩、その大将が宿泊場所をこっそり一人で抜け出して、「豚のモツビーフン」を食べにきたそうだ。本当かどうかはわからない。もしホラだったとしたら、想像力の豊かな人が考えたのだろう。

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