多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

遅子建、故郷(中国東北地方)の食(二)

 端午節の後の重要な祝日といえば、中秋節だ。中秋節には必ず月餅を食べる。当時商店で売っていた月餅は一種類だけで、ピーナッツやクルミ、白砂糖などを混ぜ合わせた餡を使っていた。現在の五仁月餅に似ており、とても甘かった。子供の頃私は虫歯が多く、月餅を食べて歯がとても痛くなり、みんなが月を愛でている時に大声で泣いていたことがある。父は私を抱き上げ、「不老長寿の薬を盗み食いして月の宮に飛んで入った嫦娥がお月様にいるよ」と言ってあやしたが、涙で朦朧とした私の目には白い塊が見えるだけだった。月の光と私の涙が混じり合ったのだろう。……

 中秋が過ぎると寒くなりはじめ、木の葉が黄色くなる。秋風が黄色い葉を空いっぱいに吹き飛ばす。雪がやってくる。雪がやってくると、臘月(旧暦十二月)と春節(旧暦正月)ももうすぐだ。臘月七日や八日になるとあごが凍って落ちてしまうと言われているので、臘月八日に人々は臘月粥を作って、食べる。

臘月粥は内容がとても豊富で、トウモロコシ、コウリャン、アワ、黒コメ、コメなどの他にインゲンマメ、リョクトウ、クロマメなども含む。これらの穀類と豆類を数時間とろ火でじっくり煮込むのである。素晴らしい香りで、こういう粥を食べれば、寒風も氷雪も怖くない。

 一年で最も盛大な祝日は春節だ。私たちの故郷では、臘月になると、女たちは新年を迎える準備を始める。女たちは毎日小麦粉をこねて、様々な形のマントウを蒸す。

蒸したものを屋外に置いて凍らせ、その後空の袋に入れて倉庫に収納し、正月に取り出して食べる。マントウ作りの他に、臘月には豚も殺す。豚を殺すのは男たちの仕事だ。豚を殺したその日は、祝日のようだ。食卓に豚を使った様々な料理が並び、大いに食欲を刺激するからだ。

 

 一年間忙しかったが、大晦日の年越しの食事をみんなで食べる。餃子の他に、テーブルには肉料理が少なくとも六皿、多ければ十二か十八皿だ。テーブルにさらにや碗が所狭しと並んでいるのを見ている大人たちの表情は、灯火に照らされて、とても穏やかだ。満足げに子供たちを見ている。羊が子羊にエサをやっている時のように、優しさに溢れている。

子供たちは争うように餃子を食べる。

大人たちがこっそりと餃子に入れておいたコインに歯がカチンと当たる時がある。そのコインをテーブルに置くと、子供たちは一つ歳を取る。

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