多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

秋の北京のあぶり肉、汪曾祺

 夏になると食欲がなくなり、薄味で簡単な料理を食べるようになる。ごまペースト麺(湯がいてキュウリの千切りを加え、サンショウ油をたらしたもの)や刻んだネギを練り込んだクレープ、緑豆粥などだ。

二ヶ月か三ヶ月経つと、体重が少し減る。秋風が吹くと食欲が出てきて、いいものを食べて栄養をつけ、夏の補いをしようとする。北方人はこれを「秋の脂身を貼る」という。北京では、それはあぶり肉を指す。

 北京であぶり肉を売る店はみな回民(イスラム教を信じる少数民族)何やっている。「烤肉宛」はかつて斉白石が「清真烤肉宛」という扁額を書いた。

北京のあぶり肉の起源はわからないが、すでに北京に根付いている。

 北京のあぶり肉は「炙子」という器具の上であぶる。

「炙子」は細長い鉄条を何本か上面につけた丸い板で、下部で松などの柴を焼く。羊肉(牛肉もあるが、少ない)を薄く切り、給仕が大碗に入れたつけだれ(醤油、ごま油、料理用酒、大量のコウサイに水を加えたもの)を客に渡し、客は長い箸で炙子の上に肉を並べてあぶる。炙子の鉄条の間には隙間があり、下から柴を燃やした煙や火の気が上がってくる。炙子全体に火が行き渡るだけではなく、肉に柴の清らかな香りが移る。肉の汁なども隙間から下に落ち、炙子の香ばしさを増す。

かつては客が自分であぶっていた。炙子は高さがあるので、立ってあぶらざるを得ず、片足は腰掛けに置いていた。強火であぶるととても上着は着ていられないので、たいていシャツ一枚になる。腰掛けに片足を置き、上着を脱ぎ、口を大きく開けて、肉を食べながら白酒を飲む。実に豪快な気分だ。部屋にあぶり肉の香りが充満し、食欲も大いに増す普通は五百グラムの

あぶり肉を食べる。一キロぐらい食べる人もいる。自分であぶるのだから、柔らかめにあぶるのも焦げ目をつけるのも自由だ。そして、あぶること自体が楽しい。

 北京のあぶり肉では、「烤肉季」、「烤肉宛」、「烤肉劉」の三店が有名だ。烤肉宛は宣武門にあり、国会街に住んでいた時、近くだったのでよく行った。顧客が多く炙子に空きがないときは、子供に弁当箱を持って行かせクレープを数枚焼いてもらった。烤肉宛には有名人がよく行った。斉白石の扁額の他に、張大千が書いたものや梅蘭芳の書いたものもある。烤肉季は什刹海にあり、烤肉劉は虎坊橋にある。以前北京人は野外であぶり肉を食べる習慣があり、玉淵潭はその格好の場所だった。野の景色を見ながらあぶり肉を食べるのは、独特の面白みがある。玉淵潭に古くから住んでいる人に聞けば、かつては秋になるとあぶり肉の香りが遠くから漂ってきたそうだ。

 現在でも北京であぶり肉は食べられるが、店員があぶったものを持ってくるようになったので、面白くない。私は行っていない。

 羊肉は秋になってから食べるのがいい。旧暦九月になると、羊は脂がのり、肥え太る。羊に脂身がのるから、人に「貼る」こともできる。

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