多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

羊の手づかみ肉、汪曾祺

 モンゴル人は子供の頃から羊肉を食べ慣れており、数日食べないと落ち着かなくなる、

 八、九月は草原が一番美しい。ひと夏の雨を経て、草が皆育ち、草原はまさに碧緑となる。至る所に様々な色の花が咲き、羊は脂身をつける、

 内モンゴルの作家はこの時期に草原に行き、生活を体験し、調査を行うことを好む。「秋の脂身を貼る」ためでもある。モンゴルのパオに入ると、まずミルクティーを飲む。

内モンゴルのミルクティーは作り方がかなり簡単で、チベットのバター茶のように煩わしくない。鉄の鍋で湯を沸かし、そこに茶葉を一つかみ入れ、何度か沸騰させる。それにミルクと塩を加えて、出来上がりだ。大きな特色があるとは思わないが、飲み慣れると、クセになる。

 

 「手づかみ肉」は、大きなかたまりに切り分けた羊肉を湯で煮たものだ。自分で肉のかたまりをつかみ、モンゴルナイフで切って食べる。モンゴル人はナイフで肉を切るのがとてもうまい。肉をひとかたまり食べると、骨には細かな筋も残らない。

 かつては手づかみ肉を食べるとき、特に調味料は使わなかった。碗に入った塩につけて食べるだけだった。現在は、醤油、花ニラなどの調味料を使う。羊をその場で殺してその場で食べるので、肉はとても新鮮で柔らかい。様々な羊肉料理を食べてきたが、手づかみ肉が一番おいしい。他に比肩できるものがない。

 

 達茂旗というところで、羊を丸ごと煮たものを食べたことがある。一匹をそのまま大鍋で煮たものだ。モンゴル人は三十分しか煮ないそうだが、私は漢族で生物が苦手なので、十五分余計に煮てもらった。ひづめを切り落とした羊が一匹、大きな銅の皿の上に這った姿勢で置いてある。食べるには規則があり、まず主客がナイフで首の後ろの部分を切り落として食べ、それから他の客が好みの部分を食べる。とても柔らかく、ナイフを入れると、血水が出てくる。怖がってろくに食べない人もいたが、私はとことん楽しんで食べた。羊肉は柔らかければ柔らかいほどいい。羊肉を煮過ぎると消火に悪いと、モンゴル人は考えている。私はおなかいっぱい食べたが、天下太平だった。

×

非ログインユーザーとして返信する