多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

秋の果物と野菜、汪曾祺

 中国人は物を食べる時、色と香りと味を大切にする。色と味については書いたことがあるので、今は香りの話をする。

 江陰にいくつか果物店があるが、最も大きいのは正街正面の寿山公園にある店だ。種類が多く、大きくて新鮮なものを売っている。中に入ると、濃い果物の香りが鼻を打つ。最も突出しているのはバナナの甘い香りだ。時々香りがするというものではなく、朝から晩まで、ずっと、長きにわたって、絶えることなく香っている。その香りは肺腑に染み渡り、人を酔わせるものだ。

 その後多くの地方に行き、多くの果物店に入ったが、この果物店の香りほど濃厚な香りは体験したことがない。常に心に浮かび、永遠に忘れることはない。 

 ちょうどその年、私は恋愛、初恋をしていた。

 今日はダイコンの話だ。ダイコンは収穫したら自由に食べられる。ダイコンは収穫すると、小山のように積み上げる。農業労働者は経験が豊富なので、ひと目見て普通のダイコンといいダイコンを見分ける。普通のダイコンは売りに出し、いいダイコンは自分で食べる。食べる時は包丁は使わず、棒でたたく。すると「カチャ」という音がして、ダイコンが裂ける。ダイコンの香りが周囲に溢れ、食べると甘みがあってサクサクしている。私たちが植えていたのはコウシンダイコンだ。

張家口というところの水と土はダイコン類の生育に向いているようで、コールラビはバスケットボールのように大きくなった。ダイコンは汁気が多くて歯触りが良く、辛くなかった。

 紅皮小水ダイコンは、生で食べても美味しい。ダイコンがあれば、私は果物は食べない。私の故郷では紅皮小水ダイコンを「柳の綿ダイコン」と呼ぶ。柳の綿が飛ぶ頃、売りに出るからだ。その期間を過ぎると、硬くなる。とても清々しい香りだ。

 南方のキュウリは北方のキュウリに及ばない。べとべとしていて、食べてもキュウリの香りがしない。

 初夏の柔らかなキュウリを食べるのが好きだ。とても美味しく、噛めば口いっぱいに香りが広がる。柔らかなキュウリは、手で握って噛むのが一番いい。たたく必要はないし、ましてや千切りなどにしなくてもいい。が、硬めの秋のキュウリが好きな人もいる。

 私は毎日ネギを食べる。ネギが好きだ。「豆腐の若ネギあえ」は、清らかさと白さが魅力だ。毎年若ネギを手に入れると、何度か作って食べる。塩とごま油、少量の化学調味料が必要だ。

 数日経つと、新鮮なネギが手に入る。私は1958年に「右派」のレッテルを貼られ、下放される前、西山八大処で長ネギを箱に詰める作業をしていた。山東長ネギで、輸出用だった。たぶん東南アジア向けだったのだろう。あんなに素晴らしい長ネギは見たことがない。白い部分が三十センチくらいで、小麦粉を伸ばす棒と同じくらいの太さだった。私たちの任務は、長ネギを大きな箱にきちんと詰め、木の板を釘で打ちつけることだった。。その長ネギの香りは甘みがあって辛みはなく、素晴らしかった。 

 もうすぐジャガイモが手に入る。ジャガイモは大きなセイロウで蒸す。蓋を開けると、素晴らしい香りだ!特に味があるわけではないが、香りが素晴らしい。域外の美食と言える。コールラビとナスも生で食べられる。

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