多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

擂茶を飲む、汪曾祺

 旅行鞄を置くと、文化局の同志が擂茶を飲みに行こうと誘いに来た。 以前から擂茶の名は聞いており、今回ここに来たのも半分は擂茶のためだ。思わぬことに列車を降りた後、最初に擂茶を飲みに行けることになったので、当然うれしい。茶の葉、ショウガ、ゴマ、米に塩を加えてすり鉢に入れ、硬い木の棒で作ったすりこぎですりつぶし、湯を加える。それが
擂茶だ。擂茶を飲むときは、他に十幾つの小皿を用意する。それに炒り米、炒ったダイズ、炒った緑豆、炒ったトウモロコシ、炒ったピーナッツ、炒ったサツマイモの薄切り、油で揚げた焦げ飯、漬物などを入れておくのだ。茶を飲みながらそれらを食べる。擂茶には独特の味わいがあり、数碗続けて飲むと、全身が気持ちよくなる。つまみの茶請けも美味しい。ここ湖南桃源県の人はみな擂茶を好んで飲む。ある農民の家では、夏は昼食をとらず、擂茶だけだそうだ。擂茶の由来を尋ねると、諸葛孔明がここに兵隊を連れてきたとき、兵士たちが疫病になった。名医に診てもらったが効果がない。ある老婆が「私が治します」と言って、大鍋で擂茶を作って兵士たちに飲ませたところ、全員よくなった。そういう話が伝えられている。諸葛孔明は兵隊を連れて湖南の桃源には来ていないので、この言い伝えは信用できない。擂茶は宋時代から伝えられていると、私個人は考えている。
 すりこぎで他のものをすりつぶしても、擂茶の一種だ。茶にショウガを入れるやり方が「水滸伝」に見える。

王おばさんの家ではそういう茶を売っていた。「水滸伝」第二十四回に「二杯の濃いショウガ茶をテーブルに置く」という記載がある。文を読んでいると、この茶には茶葉とショウガが入っていたが、ほかに何が入っていたかはわからない。どのみち王おばさんが売っていた茶と桃源県の擂茶は、何らかのつながりがあると思われる。

湖南省のかなりの地方では「ごま豆茶」を飲む。茶にじっくり炒って砕いたごまと、ダイズ、ピーナッツ、ショウガを入れるが、塩は入れないようだ。茶葉はすりつぶさず、丸ごと入れる。茶を飲み終わったら、茶葉を取り出して口に入れ、噛んで食べる。擂茶の親戚のようなものだ。湖南人はショウガを好んで食べる。……ショウガと茶葉にある種の病気を治す効果があることは、普通の漢方の本にも書いてある。北方の農村でも、茶葉とごまを一緒に口に入れ、噛んで発汗を促すやり方が伝えられている。それゆえ、擂茶の始まりは兵士の病気を治すことだったと伝えられているのも、理由のないことではない。

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