多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

蓮子(ハスの実)、梁実秋

 ハスの花のあるところにハスの実がある。

 私が子供の頃、夏になると今は亡き父が必ず什刹海に遊びに連れていってくれた。ハス池の周りは人でいっぱいだった。夕食はいつも会賢堂でとった。座席につくと、まず氷の入った大きな碗を持ってくる。氷の上にはレンコンやヒシの実、クルミの実、ハスの実などが並んでいた。

 食事が終わると、ハスの花托を何本か持って家に帰った。花托を剥くのがとても面白く、剥き取ったハスの実にさらに数層の皮があり、硬い皮を剥いても軟らかい皮、最後に芯を取り出して口に入れた。清らかな香りがお腹にしみ込んだ。路地にも花托を売りにきていたが、その季節は短かった。

 台湾に来て、長年経つ。たまにハス池の花托を見ることはあるが、新鮮なハスの実を食べる機会はとても少ない。が、糖蓮子

はよく食べた。漢方の医者が毎日十個食べると胃にいいと言ったからだが、のちに糖尿病になったので、やめた。

 一般の宴席でハスの実スープが出ることがある。

スープの入った大碗の底にハスの実が数個あり、すくって食べる。白キクラゲやサクランボが入っていることもある。以前ハスの実スープを食べるときは、専用の小さな碗と小さな銀のスプーンを使っていた。私の祖母は、そういう小さな碗で朝食をとっていた。金属の鍋ではなく、小さな土製の容器で沸かしたスープだった。そのハスの実は、本当に美しかった。小さな鍋で炊いたご飯と大きな鍋で炊いたご飯は違うということだ。

 工夫を凝らした宴席だったら「蜜汁蓮子」


を八宝飯(もち米にハスの実やナツメなどの食品を加え、蒸したもの)

の代わりによく出す。上手に作ったものだったら、みんな喜ぶ。まず、ハスの実を水に浸し、その後じっくり煮る。それを碗に入れて強火で、柔らかくなるまで蒸す。それを大皿に並べ、熱い蜜汁をかける。表面にサンザシペーストをいくつか加えると、味が引き立つ。氷砂糖の汁でもいいが、蜜汁の香りには及ばない。

 ハスの実には様々なものがある。硬くてどんなに煮ても柔らかくならないものは、安物だ。煮たらすぐ柔らかくなるが、変な色が出るものもある。そういうものはソーダの類で処理しているらしく、玄人が食べればすぐわかる。湖南のハスの実が最高だと言われていて、「湘蓮」と呼ばれる。ある年、重慶で宴会に出たが、湖南の湘潭出身の楊綿仲さんも同席していた。風流でゆったりした人で、美食家でもあった。その席に「蜜汁蓮子」が出たが、いいものだった。白くてぷっくりしたハスの実で、とても柔らかかった。綿仲さんはひとさじ食べると、「これは湘蓮だ」と言った。他の人が「そうとは限らない」と言ったので、綿仲さんは給仕を呼びつけ、「このハスの実はどこから来たのか?」と尋ねた。そのぼんやりした給仕が「ハスの花托から来ました」と答えたので、みんな大笑いした。綿仲さんが顔を真っ赤にして「君はどこから来たのか?」と尋ねると、給仕は「この土地の者です」と答え、一堂どっと笑った。

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