アワビ、梁実秋
アワビは殻のある軟体動物で、海水中の礁石にへばりつき、藻類を食している。殻の外ヘリに呼吸用の孔が並んでいる。私たちの土地で「九孔」と呼ぶものは、アワビの一種だ。
アワビの美味を褒めない人はいない。新鮮な「九孔」はどこの海鮮店でも売っており、独特の美味だ。が、日干しにした広東のアワビ
や缶詰のアワビと同列に論じることはできない。新鮮なアワビは柔らかくて香りがあり、調理したアワビには濃厚な味がある。
広東ではフカヒレの醤油煮と干しアワビの醤油煮
が有名だ。アワビは厚くてかみごたえがあり、ずしりとした重みがある。調理を経てもしこしこしており、非凡な味だ。熊の掌よりはるかにいい。
缶詰のアワビは、私の知る限りは日本のものとメキシコのものがあり、それぞれ特色がある。日本のアワビはやや小さく、色が少し淡い。一缶に四つか五つ入っていて、細やかで柔らかい。メキシコの缶詰はアメリカで売れている。様々な品質のものがある。
缶詰のアワビは調理を経ており、薄切りにしてそのまま食べても美味しい。缶詰のアスパラガスと組み合わせると、絶妙だ。缶詰を開けるや否や、フォークで食べ始める人もいる。アワビの千切りにコウサイを加えて炒めたものは
酒のいいつまみだ。
アワビをサイコロ状に切り、エビと一緒にスープにすると、酒もご飯もすすむ。
が、私が食べたアワビ料理で^最もよかったのはアワビ麺だ。
ある年の冬、瀋陽の友人の家に泊まった。私は明け方に起きる習慣なのだが、その家の料理人王さんが苦しんでいた。理由を聞くと、胃が痛いという。いつも携帯している胃薬を二粒あげたら、痛みがやんだ。王さんはとても感謝し、お礼に朝食に麺を作ってくれることになった。他に具がなかったので、主人のために取っておいたアワビの缶詰を開け、アワビを取り出して千切りにしスープも一緒に鍋に入れ、アワビ麺を作ってくれたのである。それまで経験したことのない壮挙だった。胃薬二粒で、アワビ麺だ。香りで主人は知ったのだが、ニコニコしていた。