多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

白肉(水炊きした豚肉)、梁実秋

 白肉、白煮肉、白切肉、名前は違うが、みな水炊きした豚肉のことだ。誰でも水炊きくらいできる。が、味や様相はそれがれ異なる。各地のレストランで白切肉を出し、各地の家庭で作っているが、それぞれ違う。

 北平の白切肉といえば、まず砂鍋居が思い浮かぶ。

砂鍋居は俗名で、正式名称は居順和、西単の牌楼の北側にある。砂鍋居という名を知らぬ人はいないが、正式名称を知っている人は少ない。入り口のところに大きなかまどがあり、その上に直径百二十センチ高さ百センチの大きな土鍋(中国語で砂鍋)を置いていて、豚一匹を丸ごと煮ることができるから、砂鍋居の名がついたそうだ。その鍋には百年以上の歴史があり、スープを取り換えたことがないという!ありえない話だ!ただの噂だろう。そこでは128通りの豚料理を作っている。

かつては怖くて行ったことがなかったのだが、1921年に好奇心から父に頼んで連れて行ってもらった。大鍋は一個だけで、土鍋かどうかはわからなかった。思っていたほど汚くはなかった。十五センチくらいの皿に血腸

(豚の腸に血と薬味を詰めて煮たもの)や、豚の舌

などが載っており、みな味わった。白肉ももちろんだ。なかなかのものだったので、商売は繁盛していた。正午になると豚一匹分が売り切れてしまい、客は次の日に来ざるを得ない。豚専門なので、格調は高くなく、中下級の客が多いのは当然だが、高雅な客も一度は行くようだ。

 私の母は、北平の豚は臭くて美味しくないと言っていた。最初は信じなかったが、何度も江南に行くうちに、南北で豚の味が違うことに気がついた。南方の豚肉は柔らかくて臭いが淡いというのは、本当だ。

 北平の人は、季節を選んで白肉を食べる。一番暑い時に食べるのが通常だ。赤身が多く脂身が少ないものを大鍋で煮て、切って皿にのせ、テーブルに出す。縄でがんじがらめに縛った豚肉をじっくり煮たあと冷やし、縄を解いてから包丁で切るととても薄く切れ、赤身と脂身が凝固して散らない。火が強すぎてはダメで、箸を突き刺して、煮え具合を見る。火加減には経験が要り、切るには技術が要る。横向けに切るのがよく、筋に沿って切るのはよくない。醤油に刻みニンニクを混ぜたものにつけて、食べる。四川料理だったら、トウガラシペーストも加える。醤油やベーストをかけると、味はよくない。

 白肉に合う酒は高粱酒だ。食事の時には酸っぱい白菜の漬物一皿と白肉のミンチ一皿、刻んだニレの漬物一皿、刻んだコウサイ一皿をご飯に混ぜ、そこに白肉を煮たスープをかけ、コショウの粉を振って食べるのがスタンダードだ。酸っぱい漬物で油っこさをとり、食欲を増進する。

付録:白切肉の作り方

 白切肉は北京砂鍋居の名物料理だ。油っこくはなく、冷たくても熱くても美味しい。

肉の色は白っぽく、香り豊かで芳醇な味だ。まず、バラ肉を十センチくらいの幅に切り、皮の部分を上に向けて水炊きする。煮るときにネギとショウガを入れるが、肉が八分目くらいまで煮えたら取り出す。皮をとって、ニミリくらいの薄さに切り分けて皿に並べる。醤油、トウガラシ油、醤豆腐を混ぜた汁、花ニラ、刻みニンニクをそれぞれ別の碗に入れ、それぞれにつけて食べる。この時の主食は、焼いたクレープにごまペーストを塗ったものがいい。

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