多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

ダイコンスープの啓示、梁実秋

 抗日戦争の時初めて重慶に行き、上清寺にある友人の家に泊まった。夕食は、主人がスペアリブとダイコンのスープでもてなしてくれたが、謙遜して「このスープはあまり美味しくありません。私の友人の楊夫人が作るスペアリブとダイコンのスープこそ絶品です。真似をしようとしてもかないません。一度お食べになったらわかります」と言った。楊夫人は私の知り合いでもあり、数日後、他の知り合い数人と共に家に食事に招いてくれた。

 果たして、大きな鉢に盛ったスペアリブとダイコンのスープが出た。素焼きの蓋を開けると、湯気が立ち昇り、それぞれが小さな碗に入れた。あ、本当に美味しい。スペアリブはサクサク柔らかいがカスになるほどではなく、ダイコンはしっかり煮えているが形崩れはしていない。スープは?熱くて、濃くて、いい香りだ。みんな美味しくいただき、賛美した。異口同音に主人にこの美味しいスープの秘訣を尋ねた。水の量はどのくらい?何時間煮るのか?強火か?弱火か?主人は微笑みながら、「大したことはありません。ただの家庭料理です」と言うだけ。何か企業秘密があって話せないのかと客は思い、少し失望した。その時直言居士の友人が、「この料理の秘訣をお話しします」と言ったので、みんな耳を傾けた。彼は慌てず騒がず「簡単なことです。スペアリブを多めに、ダイコンと水を少なめに、です」と言った。彼の言った通りだったのだろう。真実とは往々にしておかしなものだ。主人も何も言わなかった。

 宴が終わり、上清寺の友人の家に戻った。友人が、そのスペアリブとダイコンのスープの秘訣を信じるかと私に尋ねたので、「試してみましょう。スペアリブを多めに、ダイコンと水を少なめに、を」と言った。東山、良質のスペアリブを買い、ダイコンを切る時も、大きさや厚さに気をつけた。火加減も大切なので、とろ火でじっくり煮た。大成功だった。楊夫人の得意料理はもう「秘伝」ではなくなった。

 このことから、文章の書き方について考えた。力強くリズミカルな文を書くのは、もとより簡単ではない。が、中身のある文を書くだけなら、そんなに難しくない。つまらぬ部分を減らせばいいのだ。それが秘訣だ。スペアリブを多めに、ダイコンと水を少なめに、と同じ道理だ。

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