多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

酢溜魚、梁実秋

 西湖

の酢溜魚は宋五嫂という人が始めたと言われている。が、今から二百年前の清の時代、梁晋竹は詩で酢溜魚は有名無実のものになったと嘆いている。宋五嫂の料理の腕がどうだったのか私は知らないが、今から七十年前に亡き父の供をして杭州に遊び、楼外楼で酢溜魚を味わった。


驚くほどおいしかったので、以後西湖を通るときはいつも楼外楼で賞味するようになった。楼外楼は湖のほとりにあり、窓から小舟に括り付けた巨大なかごが見える。


そのかごの中で飼育した魚を調理するので、網で漁獲する必要はない。ふつうはソウギョを使うが、長さは三十センチ、重さは二百五十グラムくらいだ。それを殺して処理をした後熱湯を注ぎ、鍋から取り出した後、とろみをつけた汁を魚にかける。
 当然汁には酢を加えるが、多すぎるとよくない。醤油を少量加えてもいいが、これも多すぎてはだめだ。汁そのものの量も多すぎてはならず、濃すぎてもダメ、油っこいのはもってのほかだ。薄味でさわやか、かすかに透き通っていなくてはならない。ショウガを細かく切ったものを魚に乗せてもいいが、ネギはだめで、砂糖も絶対だめだ。そうしないと殺したばかりの魚の新鮮な味わいがなくなってしまう。
 今は普通のレストランで、西湖の酢溜魚を標榜する料理を出しているが、本来の風味からは程遠い。濃い汁をあふれるほど魚にかけ、砂糖も大量に使っているので、「清淡」の極致が味わえない。

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