多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

サトイモペースト、林文月

 サトイモペーストは福建南部のスイーツだ。初めてその名を聞いたのは、上海に居住していた子供時代だった。「江山楼」が祖父の家に届けた料理の中に夏はアイスクリーム、冬はサトイモペーストがあったと母が話していたのである。子供はアイスクリームが大好きで、それに関する記憶は深く残るので、聞き間違いではなかったと思う。が、大人になってから、あの時代にアイスクリームがあったのか疑問に思うようになった。今となっては深く追究するすべはない。サトイモペーストについては、その後味わう機会もあったし、自分でも何度も作った。
 サトイモペーストは甘くて油っこい。今は健康維持を大切にするので、大部分の人が敬して遠ざける菓子になっているようだ。作り方をマスターしたばかりの頃、しょっちゅう作って母と叔父に贈っていた。叔父の奥さんは東北の人だったので福建南部のスイーツはあまり好まなかった。叔父は大食いではなかったが私の作ったサトイモペーストをちょくちょく味わってくれた。若かった頃を思い出したのか、私に「この味だよ!君のおばあさんの一番の好物で、君のお母さんと叔母さんも好きなんだ。台南の人は甘いものが好きなんだ」と言ったことがある。叔父は普段は堅苦しく、あまり笑わないのだが、この話をしたときはとても楽しそうだった。郷愁や心の奥深くにしまった記憶を、味覚が引き出すことがあるのだろう。

……
 サトイモペーストの材料はそんなに多くない。サトイモと豚の油、砂糖とナツメ、少量のモクセイジャムがあればいい。サトイモは大きめの物を選ぶ。豚の油は、買ってきた脂身を自分で加熱して作ると、純粋で濃厚だ。砂糖は二百グラム。ナツメはペーストの上に置いて見栄えをよくするための物なので、数は決まっていない。モクセイペーストは味付け用なので、好みに応じて量は異なる。
 まず、サトイモをきれいに洗って皮をむく。アレルギーのある人はビニールの手袋をつけるといい。横向きに二センチくらいの暑さに切ったサトイモをアルミ製の蒸鍋の中に並べる。サトイモが軟らかくなるまで強火で蒸し、熱いうちに包丁の背やしゃもじでサトイモをペースト状に押し広げる。

これはくたびれる作業だ。サトイモにはでんぷんが多いので、水蒸気に逢ったでんぷんが固まってしまうからだ。が、サトイモの良さはなめらかさと柔らかさにあるので、この作業はしっかりと行わねばならない。
 次に、野菜用の弱火の鍋に豚の油を入れ、サトイモペーストも入れて、何度もかき混ぜて融合させる。そこに砂糖を振りかけて、じっくり溶け合わせる。硬かったサトイモペーストも、油と砂糖で徐々に柔らかく、なめらかになっていく。油は二回に分けて入れるといい。
 十分に溶け合うと、サトイモ独特の香りがあふれてくる。そこで容器に移し替える。モクセイジャムがあったら、そこに加え、もう一度蒸す。蒸し終わるとモクセイの香りがほのかに漂い、ペーストも滑らかで平らになっている。事前に水に浸し種をとっておいたナツメを、表面に並べるととてもきれいだ。

甘くておいしく、一さじか二さじ口に入れただけで、いつまでも味わいが尽きない。

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