多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

香酥アヒル、林文月


 子供の頃、私はアヒルを食べなかった。生臭さが嫌だったのだ。高校時代、友達同士の関係はとてもよかった。大部分が延平北路に住んでいたが、毎年旧暦五月十三日が縁日で、それぞれの家で宴を開いた。人情味豊かなもので、今の台北では見られない。そんなに凝った料理はなく、数皿の揚げ物と水煮、蒸し物くらいだった。それぞれの家で大碗のアヒルスープ

を出していた。油が浮かび、ショウガの切れ端を混ぜてはいたが、アヒル特有の生臭さがあったので、私は敬して遠ざけていた。

 が、生臭くないアヒル料理もある。北京ダック

と香酥アヒルだ。

北京ダックは調理に特別な設備が要るので、一般の家庭では無理だ。香酥アヒルは手間はかかるが、何とかなる。
 まず、あまり太ったアヒルはダメだ。香酥アヒルは作った日に食べられる料理ではない。買ってきたアヒルの内と外に塩とサンショウを擦り込まなければならない。特別に暑い季節でなかったら、塩とサンショウを擦り込んだアヒルを涼しい屋内に置いておく。夏だったら、少しの間屋内に置いたのちに冷蔵庫に入れるのがいい。だいたい一晩で皮や肉の中に味が深くしみこむ。蒸鍋に水を入れて、それを蒸す。汁がこぼれて味がなくなってしまわないように、蒸すときは大皿に入れる。アヒルの肉が軟らかくなるまでじっくり蒸す。大きさによって多少の違いはあるが、だいたい二時間くらいだ。最初は強火で蒸してから、中火で蒸す。
 ずっと蒸していると、脂肪分が液体となってアヒルを置いている皿にたまり、肉も十分軟らかくなる。そうなったら皿ごと蒸鍋から出す。皿に油や汁、サンショウの粒がたまっているが、皿を少し傾けて流す。アヒルを手で触ってはならない。とても熱いし、変形してしまうかもしれないからだ。
 しならく置いておくと、熱気も徐々に消え、肉もそんなに熱くなくなるので、箸か刷毛でアヒルにくっついているサンショウの粒を落とす。しっかり擦り込み、長時間蒸したので、サンショウの香りと塩の味が深く肉に溶け込み、アヒル特有の生臭さは消えている。サンショウを全部取り去ったら、あひるを別の皿に移し、しばらく置いて乾かす。
……
 最後に、口が大きくて底の深い鍋に、アヒルが半分つかるくらいの油を入れる。最初は強火で加熱し、中火に変えてから、アヒルをゆっくり入れる。このときは大胆かつ細心、そして軽やかに行うべしというのが私の考えだが、経験が必要だ。
 アヒルに多くの水分が残っていると、油鍋に入れたときに飛び散るので、しっかりと乾かしておかなければならない。右手でフライ返しを動かし、アヒルが均等に揚げられるようにする。香酥アヒルを揚げるときは強火は使わない。中火でゆっくりと、アヒルの皮が黄色くなるまで揚げていく。

 香酥アヒルを揚げる時のポイントは「慌てず、急がず」だ。じっくり時間をかけると皮は黄金色で肉も美味しい。強火で急いで揚げるとかわが皮が黒くなり、肉も美味しくない。「急がば回れ」だ。

 アヒルの皮が淡い茶色になったら、完成だ。火を止めて、鍋からアヒルを取り出し、腹を下にして立てて油を流し落とす。白い皿に腹を下、背中を上に置く。緑の野菜を添えると色が映えて美しい。

 香酥アヒルの調理は一見複雑だが、実際は三段階。一、サンショウと塩を擦り込む。ニ、蒸す。三、油で揚げる。それゆえ、コツを掴めばそんなに難しくない。


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