舌で味わう中国、徽州の毛豆腐
安徽省南部の徽州は、独特の地理環境と温潤な気候のため、人々は落ち着いた気質となり、特有の食文化が生まれた。白い菌糸をつけた毛豆腐がそうだ。実質的には豆腐だが、どうやったらこういう食物ができるか、想像し難い。
今、方興玉は豆腐坊の仕事の大部分を長女に譲った。まだ、毛豆腐を大量に生産できる季節ではないが、方興玉の家では毛豆腐を作り始めている。
豆乳の表面が徐々に凝結していく。これは大豆に脂肪が含まれているからだが、余計な脂肪は毛豆腐にとってよくない。発酵を促す自家製の酸性水が大切だ。
酸性の物質は大豆のタンパク質を凝固させる。それと同時に内部の微生物がつけ汁に流入し、種を蒔くように豆腐の中に染み込んでいく。
夏の一番暑い時には、毛豆腐は作れない。サウナのような時に豆腐の発酵をコントロールするのは困難だ。他の季節になったら、徽州は温潤な気候なので、微生物による発酵をうまくコントロールできる。
豆腐表面の絨毛を見れば、黴菌や酵母菌がちゃんと成長しているかわかる。それは発酵の進行と最終的な味にも影響する。美食をよく知る徽州の人は、毛豆腐の食べ方が上手だ。
ベテランだったら、トウガラシの入ったみそを炭であぶった毛豆腐につけて食べる。
発酵した豆腐は内部も異なっている。黴菌が分泌するプロテアーゼが大豆のタンパク質を分子の小さなペプトンとポリペプチド、アミノ酸に分解するからだ。この一連の変化で、豆腐は驚くほど美味しくなる。この濃厚な美味こそ、徽州の人の「故郷の味」だ。
菌糸の間に散らばっている小さな顆粒は胞子で、毛豆腐の成熟を見る基準だ。聡明な中国人はこういう微生物を利用するのがとてもうまい。久遠の昔からだ。