多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

クルミと豚の腎臓の揚げ物、梁実秋

 ある小さなレストランのメニューに「クルミと豚の腎臓の揚げ物」と書いてあったので驚いた。厚徳福の名物料理で似た名前の物を思い出したからだ。好奇心で注文した。豚の腎臓を油で揚げたものに揚げたクルミを混ぜたものだった。火加減が適切であれば、軟らかく揚げた豚の腎臓は美味しい。揚げたクルミも美味しい。甘くなくても美味だ。が、クルミと豚の腎臓を同じ皿にのせるのはこじつけという気がする。軟らかいものとカリカリしたものが一緒では、調和が取れない。
 厚徳福の「似た名前の料理」というのは、クルミと豚の腎臓を一緒に調理したものではない。豚の腎臓の調理法が他と違い、クルミと似たような味や食感がするから、そういう名前が付いた。まず豚の腎臓をかなり厚い長方形に切り分ける。


表面に縦横の切れ目を入れて油で揚げるのだが、火加減が大切だ。油は熱くなくてはいけないが煮立ったものはダメだ。黄金色に揚げて、サンショウと塩を混ぜたものにつけて食べる。硬くも軟らかくもなく、適度な噛みごたえがある。
 一般的に、北方のレストランは豚の腎臓の炒め物が上手ではない。火を通し過ぎて硬くなり、蝋を噛んでいるみたいになる。さっと炒めたものだと、四川料理レストランや湖南料理レストランのものの方が軟らかくて美味しい。むきえびと腎臓を一緒に炒めた料理だったら浙江レストランの名物だが、よくできたものはもう見られなくなった。

 私個人の経験を言えば、福州レストランの豚の腎臓の炒め物が最もよかった。腎臓を大きく分厚く切り分け、縦横に包丁で切れ目を入れている。このうえのないほど軟らかく、血もついていない。とろみをつける汁には工夫が凝らされており、ほのかな甘みがある。油ではなく、湯に豚の腎臓をさっと通し、その後炒めてとろみをつけたのだろう。火加減が実に巧みだ。

 抗日戦争の期間、ある作家の岳父である鄭さんの家でご馳走になったことがある。鄭さんは福州の人で、司法の世界で活躍している人だ。料理を好み、鄭さんの家のコックが作ってくれた豚の腎臓の料理は、まさに神技で美味の極致だった。今でも忘れられない。

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