多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

香酥餅、周作人

 紹興の塔山に二つの名物がある。

一つは香酥餅

もう一つは芽豆炒めだ。

子供の頃、大人に塔山へ芽豆炒めを買いに行くように言われると、喜んで走っていった。が、香酥餅の場合は少しためらった。香酥餅は塔山の下にしかなく、二つか三つの店が並んでいた。確か、沛国斎何とかという名前の店があったように記憶している。そこは一間の清潔な店で、カウンターの奥に有名な香酥餅を入れた大きな磁器の容器がいくつか並んでいた。直径四センチか五センチの小さなもので、墓に供える焼餅に似ていた。おそらく小麦粉の粉で作ったもので、中に砂糖入りの餡があり、軽やかでさくさくしていて、その名に相応しく、香料も入っていた。値段は高くはなく、小さなものだったので、百個買っても大きな荷物にはならなかった。そんなに見た目がいいわけではないが、塔山下の名物ということでありがたみが増した。

 その店には特色が一つあった。女性が店番をしていたのだ。そんなに美人というほどではなかったが、おばさんという歳ではなく、きれいな服を着て丁寧に客に応対していたので、女性に興味を持ち始める年代の少年たちは好んで行った。そういう年代の少年が本当に香酥餅を買いに行くときは、恥ずかしさを感じることを禁じえなかった。その店は古書や碑文を売る店に雰囲気が少し似ていて、閑静な感じだった。落ちぶれて流れてきた文人が、菓子の作り方を少し知っていたので、生活のために小さな店を開き、それが有名にはったのではないかとも思ったくらいだ。

×

非ログインユーザーとして返信する