多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

口かない、腸に充つ、周作人


 「千字文」に「口かない、腸に充つ」という言葉があるが、とても面白いと思う。人類がものを食べる動機を要領よく説明しているからだ。人類といったのは、普通の動物がものを食べるのは飢えを満たすことだけが目的だからだ。楽しく充分に食べることを大切にしているのは人類だけだ。うまいかまずいかを区別し、現在なら熱量とビタミンも計算する。

 当然熱量供給と消耗のバランスが崩れ、ビタミンが欠乏すれば、病気になる。が、「腸に充つ」の問題も重要だと思う。ビタミンに関する病気が「腹いっぱいの餓死」であるのと同様、熱量とビタミンが充分でも食べる量が不足していれば、とてもつらい飢餓を感じる。衛生的には無害だとしてもだ。将来科学が発達すれば、一人が一日三粒の丸薬を飲むだけで充分な栄養が補給でき、食事を取る必要がなくなるという議論もある。確かにそういう日が来るかもしれないが、胃腸を改良しなければ、保健の面ではよくても、生理的な苦痛は免れないのではないか。胃は空虚であることに慣れていないのだ。衛生と「口にかなう」ということは人類の進歩によって得られたのだが、「腸に充つ」ことも根本的に必要で、軽視できない。ビタミン剤には限度がある。熊の掌

と魚をいつも味わうことは無理なので、野菜と鶏料理が中心にはなるが、毒がなくて食べられればいい。腹いっぱいに食べてこそ、腕まくりをして仕事ができるのだ。民衆はずっとそう考えてきた。今考えても、完全に正しい。    (1951.1)

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