多田敏宏:中国の食と病と文学のブログ

中国の食と病について文学の点から見てみたいです。

スイカの種を食べる、豊子愷

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 酒の席や茶楼で、多くのスイカの種を食べる名人を見た。最近「瓜子大王」が売れており、子供たちもそのやり方を身につけている。私の技術は国内の子供にさえ遠く及ばないが、外国人よりは上だ。確か、以前横浜行きの客船で日本人と同じ船室だったことがある。荷物をいじっていると友人が贈ってくれたスイカの種があった。旅は寂しかろうと思ったので、袋を開けてその日本人と一緒に食べることにした。彼は食べたことのないものだったので、とても珍しがった。私は遠慮せずに玄人のふりをして食べ方を教え、やって見せた。祖国のおかげで、失敗しなかった。が、その日本人が練習しているのを見て、まさに憐れみを感じた。スイカの種を口に入れようとして「ガリ」と噛んでも、うまくいかない。唾液で種の殻がびしょぬれだ。手で殻をむこうとしてもうまくいかず、種が滑り落ち、探しても見つからない。……
 スイカの種を食べることを思いついた人は、まさにすごい天才だ!「ひまつぶし」に最も効果のあるやり方だ。「食べ飽きない」、「食べても腹いっぱいにならない」、「殻をむかねばならない」という三つの条件を備えているから、最も効果があるのだ。
 「食べ飽きない」ということは「なくなるまでやめられない」ということだ。塩辛くもなく甘くもない味なので、人を不断にひきつける。この一粒で終わりだと思っても、飲み込んだ後に味が残り、手を出してしまう。甘いだけのものや塩辛いだけのものは、すぐに食べ飽きてしまう。甘くも塩辛くもないものこそ食べ飽きない。だからスイカの種はいくら食べても飽きないのである。……
 「食べても腹いっぱいにならない」ということは「三日三晩食べ続けても糞の量はごくわずかだ」ということだ。分量が微小なのでそうなる。ひまつぶしには、これはとても重要なことだ。分量が多く、少し食べただけで腹いっぱいになっては、時間がつぶせない。被災者救済の食糧とは、目的が正反対だ。被災者救済の食糧はおなかがいっぱいにならなければならないが、ひまつぶしの食糧はおなかがいっぱいになってはならない。味わうだけで腹に入らず、食べれば食べるほど飢えを感じるものが一番いい。……
 「殻をむかねばならない」というのも、ひまつぶしの食品には必要な要素だ。殻がなければ、食べるに便利すぎてすぐに腹が膨れ、多くの時間がつぶせない。必ずむかねばならず、むくには生き生きとした技術が要る。苦しい仕事のようなものではなく、ゲームのようなものであってこそ、有閑階級の生活に適合し、愉快に時間をつぶせるものとなる。
 時間つぶしに有利な以上の三条件を備えているのは、この世のすべての食べ物の中で、スイカの種だけだ。それゆえ、スイカの種を食べることを思いついた人はすごい天才だというのだ。そしてできる限りスイカの種を享受している中国人は、「ひまつぶし」を積極的に、すばらしく実行している!菓子屋でのスイカの種の売り上げを見よ!茶館や飲み屋、家庭で床に散らばっているスイカの種の殻を見よ!中国人がスイカの種を食べてつぶす時間を毎年数え上げれば、膨大な数になることがわかる。このまま続けば、スイカの種を食べるうちに全中国が消滅してしまうのではないか。
 もともと、スイカの種を見ると恐怖を感じていたが、ここまで書いて、恐怖が一層増した。

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